ATTAC関西緊急学習会報告(その1)〜ウォーデン・ベロさん講演要旨

11月29日、エルおおさかにおいて、ATTAC関西グループ緊急学習会「フィリピンはどう変わるのか」を開催しました。サブタイトルは「ドゥテルテ政権の対中接近の意味とトランプ政権下の東アジア」です。まず、この学習会でのウォーデン・ベロさんの講演をアップします。文責は主催者にあります。小見出しも主催者で付けました。質疑応答については、別途アップする予定です。

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フィリピンはどう変わるのか

ドゥテルテ政権の対中接近の意味とトランプ政権下の東アジア

ウォルデン・ベロ(京都大学東南アジア研究所客員研究員)

ドゥテルテ・ショックとトランプ・ショック

ATTACとは、日本だけではなく国際的にも長年にわたる協力関係にある。今日はフィリピン大統領ドゥテルテについて、ドゥテルテ政権が東アジアにどういう影響を与えるか.お話ししたい。

今年、二つの激震が東アジアを襲った。一つはドゥテルテショックで,もう一つはトランプショックだ。ドゥテルテは、フィリピン大統領としてマスメディアに取り上げられている点ではマルコス以来のことである。10月に来日したとき、ワイドショーやコメディでも取り上げられた。私も、ドゥテルテについて取材をうけ、これまでになく忙しい日々だった。

ドゥテルテ政権の登場とトランプの勝利が結びついて、日本政府にとって心配の種となっている。アメリカのアジア戦略の中で安定した要衝としてあったフィリピンが不安定になっているし、トランプ勝利で日米関係も先が見通せなくなっている。フィリピンは長い間東南アジアで安定した民主主義の国だと言われてきたが、今ではフィリピンの民主主義がどうなるのか、さらにはアメリカの民主主義がどうなってしまうのかという問題を抱えこんでいる。突然,世界の西側同盟の結び目がドイツと日本になってしまった。

Walden

ドゥテルデとはどのような人物か、なぜ当選したのか

まず、フィリピンの状況について、ドゥテルテとはどういう人物か話しをしたい。

ドゥテルテは、5月9日の選挙で38%以上の投票で大統領に当選した。これはフィリピンにとって政治的な激震だった。つまり、1986年マルコス打倒後の民主主義をベースにした政治システムの終わりを意味しているからだ。

ドゥテルテが票を集めた要因の一つは、対麻薬戦争への評価・期待だが、もう一つ社会的経済的な改革への期待も含まれている。人々は30年にわたるエドゥサ・システム(マルコス打倒以降の政治・経済・社会システム)が何もいいことをもたらさなかったことに怒りを蓄積していた。革命と選挙での票の集中は同じ効果を持っている。私は上院議員選挙に立候補して全国を回ったので、ドゥテルテへの熱い支持・期待を直接に感じた。ドゥテルテは街頭の言葉、つまり人々の普段使っている言葉で話す。麻薬常習者を殺すことへの期待もあった。エリート層への非難を頻繁に行ない、それが人々に受けた。彼の演説が予告されると、人々は何時間も前から集まってきて、彼が来るのが5,6時間遅れてもずっと待っている。当初ポスターの手配すらできていなかったが、人々が勝手にポスターを貼った。トライシクルのドライバーがステッカーを買って自分で貼っている。これまでの選挙では政治家がキャンペーンを行なっていたが、今回は民衆自身がキャンペーンを行なっていたのが違う点だ。

ドゥテルテと対麻薬戦争

ドゥテルテに対する選挙の際の圧倒的な支持が今でも続いている。犯罪に対する戦争,麻薬に対する戦争が人気を持続させる要因となっている。私は法律を無視した「処刑」には問題があると思うが、5千人以上が既に殺されている。ドゥテルテ支持者がネットを通じて、ドゥテルテに反対する人を攻撃していている(「インターネット戦争」と呼ばれている)。金でやっている人もいるが、大半は人々が自発的にやっている。ドゥテルテはこの30年間のフィリピン政治の中では、もっとも国民を二極分化させる政治を行なっているが、支持は続いている。

大きな論争になっているのは麻薬との戦争だが、選挙以降、ある調査では5500人を超える人が殺されている。これは数ヶ月間での数字で、タイのタクシン政権のもとで麻薬戦争で殺された人の二倍になっている。インターネット戦争の中でもメインのテーマになっている。私がネットで反対意見として、法にもとづいて処罰すべきと書き込むと、それに対してものすごい反論がある。ネットでドゥテルテを支持している人々は普通の人々だ。彼らは、フィリピンは混乱・腐敗していて、それを変えるには普通のやり方ではダメという感覚を持っている。

ドゥテルテの経済政策

ドゥテルテは「変化をもたらす」と約束し、庶民の福祉、権利を約束しているが、実際に何をしようとしているかは明らかにしていない。閣僚の中に進歩的人々(共産党系の民族民主戦線から)を、農地改革相、社会福祉相、汚職撲滅相などとして入閣させている。共産党に近い人が入閣していることは非常に重要なことだ。他にも、鉱山開発に強い反対の意志を持った人を鉱山開発相に任命している。

また、ドゥテルテはWTOに反対の立場をとっている。就任演説の中のかなりの部分をWTOへの批判に費やした。この演説では、ATTACの文献から話の種をえていた。彼は,フィリピン農業がひどい状況になっているのはWTOのせいで、農業保護政策をなくしていったことが原因と指摘している。

ドゥテルテの外交政策

具体的な経済政策はまだ分からないが、外交政策の主要な関心はアメリカとの関係にある。

彼がアメリカに対して悪い印象を持ったきっかけは、アメリカ大使がダバオで彼の起こしたレイプ事件を揶揄した発言をしたためと言われている。中味はとても言えるものではないが、大使がそれをジョークにした。次に、オバマ大統領が彼の対麻薬戦争を批判したことで感情を害した。それで、オバマに対して激しい批判をした。彼はそういう意味で、アメリカが人権という観点からフィリピンを批判することは主権侵害であるとして反発している。

彼の性格として,批判に対してすぐにカッとなること、彼が自分と国家を同一視していることに起因している。彼のアメリカに対する感情は60年代に学生だった頃、活動家ではないが広い意味でアメリカ帝国主義に反対する運動の中にいたことにさかのぼる。左翼に対してオープンであって、拒否しない。伝統的な政治家ではあるが、左翼を忌避しない。左翼からの入閣とともに、新人民軍との和平交渉をやろうとしている。

ドゥテルテは、中国,ロシアと友好的で緊密な関係を作っていくと言っている。これは単にアメリカが嫌いというだけの理由ではなくて、このことでこれまでの政権との違いを打ち出そうとしている。中国の台頭とアメリカの衰退というプラグマチックな観点もある。

アキノ政権はアメリカとの関係が余りにも緊密過ぎた。実質的にアメリカ戦略の中での基地になってしまった。したがって、アキノ政権が主権を必要以上のアメリカに譲り渡してきたと考えているフィリピンの多数の感情に合致している。法律を無視した処罰を批判する私も含む多くの人たちも、アメリカと距離を置くという彼の外交政策を支持している。私が支持するという意味は、中国との関係においても強い立場をとるべきであるが、そのためにアメリカに従属して基地を置くことは間違いということである。超大国の争いに巻き込まれていくからである。

中国訪問のときの彼の声明に対して、アメリカから中国に主人を変えるつもりではないかと多くの人が考えた。私はそうは思わない。ドゥテルテの中国に対する対応は正しい。新しい外交の枠組みを作ろうとしている点において、彼の外交政策は正しいと思う。彼は中国に行く前に日本に行くつもりだったが、中国から誘われて先に中国に行った。この点からしても、彼がアジアにおける力関係をよく見ていることがわかる。

ドゥテルテは日本に対しては、特別に対立とか接近とかの政策を持っている訳ではない。日米の関係に立ち入るのではなくて、経済援助、貿易・経済協力を期待している。ドゥテルテが来日中に、安倍首相がドゥテルテとアメリカとの仲介をしようとしているとの報道があった。今となっては、ドゥテルテが他の国とアメリカとの仲介役を果たすほうがいい。

ドゥテルテとトランプ

ドゥテルテとトランプは性格が似ていて、権威主義的という点も似ている。ドゥテルテはエスタブリッシュメントではなく、アウトサイダーの政治家で、その点もトランプと共通している。二人ともポピュリストで、困った言動で注目を集める点も共通。ドゥテルテは躊躇なく、こういう奴は殺すと言うし、トランプは差別的な言辞を吐くのを躊躇しないという点も共通している。二人とも新自由主義に対する反乱という面がある。お互いに認めあっている。こういう点で他のリーダーと違っている。既成の政治勢力の中の保守的な層と異なっている。

ドゥテルテの環境政策とマルコスの埋葬問題

一つ付け加えたいのは、環境政策、気候変動についてのドゥテルテの考え方である。ドゥテルテは、はじめのうちはパリ条約に反対だった。反対の理由は、条約・交渉の内容が途上国に不利であり、アメリカなど気候変動に犯罪的な役割を果たしてきた国が温室効果ガス削減を言っているという欺瞞にあった。この点では、彼と同じ意見を持っている。パリ条約は不平等・不公正で,環境に犯罪的な人々の利益を守り,義務を課していない点で内容が弱々しい。しかし、彼の政策顧問が彼の考えを変えさせて、パリ条約にサインさせた。

あと一つ、ドゥテルテが、マルコスを国家の英雄の墓に埋葬しようとしたことが論争になっている。86年に打倒されたマルコスがハワイで死亡してから,家族は英雄の墓に埋葬するように働きかけてきた.これまでの政権はこれを拒否してきた。現在でも人権団体を中心に強い反対がある。しかし、ドゥテルテはマルコス一家と親密な関係にある。マルコスの息子の支持を取り付ける見返りとして、墓への埋葬を約束する文書にサインしていた。実は二週間前、真夜中に誰も知らないうちに墓に持ち込まれて埋葬された。その後、連日大きなデモが起こっている。日本でも靖国の問題を類推してもらえば理解できると思う。

ドゥテルテ政権とフィリピンの今後

ドゥテルテ政権のもとでフィリピンはどうなるのか?ドゥテルテは、権威主義的、独裁的で人権を無視する。法に従った手続は安定した社会秩序を作っていくのに邪魔になると考えている。将来,独裁的な方向に行くのではないかと考えている。ドゥテルテの人気と反対政治勢力の意気消沈で、国会内では反対する議員は10人くらいしかいない。ドゥテルテの人権侵害に対して闘っているのは、私も参加している「私は人権を擁護する」という市民レベルのキャンペーンが唯一という状況だ。

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