ATTAC関西緊急学習会報告(その2)〜当日配布資料①「オバマの遺産がクリントンの敗北をもたらした」

学習会では、ウォーデン・ベロさんが最近執筆された文章を資料として配布しました。ここでは、トランプが大統領選挙で当選した背景を分析したものを紹介します。

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オバマの遺産がクリントンの敗北をもたらした

(How Obama’s Legacy Lost the Elections for Hillary)

オバマ政権は大銀行を解体することができず、困窮した住宅所有者を救済せず、苦闘する労働者に無分別な貿易協定を押し付けた。ラストベルト(「赤錆地帯」)が民主党に反抗したことが驚くべきことだろうか?

 

2016年11月17日

ウォーデン・ベロ

 

2016年の選挙で確実に明らかになったことが1つあるとすれば、それはヒラリー・クリントンの予期しない敗北が、(これまで民主党の拠点だった)ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアと(流動州で、オバマが2度勝利した)オハイオの4つのいわゆるラストベルト州で敗北した結果だということである。

これらの州 – そのほとんどは従来、「激戦州」ですらなかった - の64人の選挙人の票によってトランプは勝利した。今では明らかになっているように、トランプの選挙人獲得数は共和党支持層の投票率の高さと、これまで民主党に投票していた人たちのかなりの部分を引きつけたこと、そして民主党支持層の多くが投票場へ行かなかったことの組み合わせによるものである。

 

間違ったメッセージと正しいメッセージ

 

しかし、これは始めから決まっていた敗北ではない。これらの有権者の多くにとって投票行動の決め手となった経済問題について、トランプにはメッセージがあった。つまり、(オバマが言う)経済の回復は妄想であり、人々は民主党の政策によって痛めつけられており、民主党がホワイトハウスを支配しつづけるならもっと大きな苦痛が待っているというメッセージである。

クリントンにとって困ったことは、このデマゴーグのご都合主義的なメッセージが、メッセンジャー自身に大きな問題があったとしても、これらの州の中間階級や労働者階級の有権者にとっては真実のように聞こえたのである。

確かにこれらのトランプの側に行ってしまったり、投票をボイコットした労働者階級の有権者たちは主に白人だった。しかし、この同じ人々が08年にはオバマに信頼を寄せ、ジョン・マケインを大差を敗北させたのである。この人々は12年には、票差は少なくなったが、オバマの下にとどまった。

ところが16年に、この人々はうんざりしていた。長期にわたる経済停滞をいつまでもブッシュ政権の責任にする民主党の説明にもはや我慢できなくなっていた。クリントンはこの人々の反発の矢面に立たされた。彼女がオバマの遺産を継承するという戦略的誤りを犯したからである。それは有権者にとっては、彼が8年前 – つまりブッシュ政権の下で深刻な経済停滞に陥っているこの国を引き継いだとき - に約束した経済的な救済や繁栄の回復をもたらさないということである。

これらの4つの州は現実世界において、この20年にわたるアジアやその他の地域への製造業企業の移転の結果として米国全体に押し寄せてきた高い失業率と産業空洞化の複合的問題の最悪の結果を反映していた。07-08年の金融崩壊と、銀行に唆されて多額の債務を抱え込んだ数百万人の中産階級および貧困層の住宅取り上げの組み合わせによって、この地域は火薬庫となりつつあった。

 

景気刺激策の大失敗

 

2015年に全国の失業者数はいわゆる「大不況」が始まった07年の時点での670万人よりも依然として約200万人多い。現在では失業率はピークだった09年後半の10%よりは下がっているが、この低下は痛々しいほど緩慢であり、しかも改善は労働をめぐる条件の改善の結果というよりは、就業希望率の低下、つまり失望した労働者が労働市場から撤退した結果である。

失業率が実質的にはほとんど改善されていないことは、09年、つまり民主党が両院の多数を占めていた当時に政府が行った宿命的な決定に起因する。オバマの最高経済顧問は不況から早期に脱出するためには1兆8千億ドルの経済刺激策が必要であると提言していたが、オバマはそれに従うのでなく、7870億ドルだけを提案することを決定したのである。

なぜか? それは経済的な合理性ではなく政治的都合によるものであり、共和党の強硬な緊縮財政論者たちに「合理的である」と評価されたいという願望によるものだった。オバマがもっと強い政治的意志を持っていたなら、その後のオバマ政権の全期間にわたって草の根の人々が直面した経済的悲惨の多くは回避できた、あるいはもっと短期間で終わっていただろう。

バリー・アイケングリーン(米国の経済学者)が「Hall of Mirrors(鏡の間)」の中で述べているように、「より大規模な景気刺激策の利点を確信している政府や大統領であれば、そのために論戦を展開することができただろう。オバマは選挙の勝利によって獲得した政治的資本をそのために投資できただろう。彼はメイン州やペンシルベニア州などの流動州から選出された共和党議員にもアピールすることができただろう。議会の頭越しに大衆にアピールすることもできただろう。しかし、オバマの本能が、自分の政策のために論戦を展開するのではなく、さまざまなオプションのバランスを取ることを選択したのである。それは対決ではなく妥協だった」。

 

強制退去させられた人々を見捨てる

 

オバマは雇用の戦線における失敗と同様に、銀行によって煽られた住宅バブルの崩壊によって破産した、あるいは破産寸前に追いやられた数百万世帯に救済を提供することができなかった。

政府が介入して、銀行に抵当権を放棄させることによって住居を失う危機にある世帯を救済すべきであるというすべての地域からの訴えにもかかわらず、オバマと彼のチームは銀行を救済することにのみ関心を寄せ、銀行が早期に収益性を回復するのを妨げるようないかなる措置も回避することを選択した。

400万世帯に強制退去を回避するための支援を提供することにあまりに冷淡だったために、普段は抑制的な論調である「ナショナル・ジャーナル」誌でさえ、住宅危機に対するオバマの対応を「熱意が感じられない、中途半端で、矛盾だらけであり・・・暴落する市場の中ではほとんど効果がなく、依然として困窮状態にあり強制退去に直面している数百万人のアメリカ人の役に立たない」と評している。

もうひとつの激戦州で、民主党から共和党に入れ替わったフロリダ州と同様に、ラストベルトの各州は見捨てられた家、強制退去させられた家が散在し、家を失った人々が、当初は支援を期待した政権に対して怒りを燃やしたのである。

 

規制機関の活動が規制されてしまった

 

おそらくオバマ政権の最大級の失敗は銀行をおとなしくさせ、規制することが全くできなかったことだろう。彼は第一期の当初は銀行経営者に対して、規制強化におとなしく従うよう警告していた。「私の政権があなた方と熊手の間に立ちふさがっている唯一の緩衝材だ」と彼は注意を促していた。

ところが大銀行の詐欺によって経済が破滅の寸前に陥ってから8年を経て、ウォール街の最高経営者の誰一人として、サブプライム、モーゲージ、デリバティブの取引に関連する無数の犯罪に関連して逮捕されていない。

実際、銀行の最高経営者の報酬は何の制限もなく上がり続けており、インスティテュート・オブ・ポリシー・スタディーズの調査によると20の有力銀行の最高経営責任者は税の抜け穴によって8億ドル近いボーナスを受け取っている。彼らが経営する銀行の株価は危機の前の水準に低迷しているにもかかわらず、である。報酬の総額(給与とボーナスと株式取得権の合計)のトップの2人は07年の危機の発生に寄与した2人の最高経営者、つまりJPモルガンのジェイミー・ダイモン(15年の所得が7600万ドル)とゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン(同2340万ドル)である。

オバマが2010年に「ドッド・フランク・ウォール街改革・消費者保護法」と呼ばれる包括的金融改革パッケージに署名した時、彼は次のように述べた。「米国の人々は二度とウォール街の失敗のツケを払うことはないだろう。今後は税金による救済は行われない。以上」。しかし、この法律が実際に行ったことは、資産が500億ドル以上の金融機関は「システム上重要」であると規定することによって、大銀行は「大きすぎて潰せない」というお墨付きを与えられたのである。

多くの改革論者が提言したにもかかわらず、デリバティブ – 有力投資家のウォレン・バフェットはそれを「大量破壊兵器」と呼んでいる – は禁止されなかった。ドッド・フランクは銀行が預金者の資金を使って自行の名義で取引することを禁止するのではなく、それを許容した。実質的には改革論者たちが提案したすべての改革が、コーネル大学のジョナサン・キルシュナー教授の表現を借りれば、「一連の例外、除外、条件付け、あいまい表現によって骨抜きにされた」。

2009年以降、金融資産の集中がさらに進んだのは驚くことではない。今では4大銀行の資産の総額は米国のGDP(18.6兆ドル)の50%に達している。

選挙の数週間前に、ジョン・スタンプCEO(最高経営責任者、15年の年収が1900万ドル)のウェルズ・ファーゴが同行の預金者数百万人の名前で、無断で口座(架空口座)を開設したことが発覚したが(私も名前を使われたかも知れない)、これは地上世界では政権がウォール街を大目に見てきた結果であると理解され、大統領に選ばれたら銀行に「強い姿勢」で臨むというヒラリー・クリントンの約束に大きな疑問符を付け加えた。

 

閉ざされた将来展望

 

有権者がリーダーに求めるのはより良い未来の構想である。

 

中国やそのほかの低賃金の国に雇用が移転したことによって荒廃してきたラストベルトの人々にとって、オバマが政権の第二期の初めに打ち出した未来の構想は、希望よりも不安を与えるものだった。それがTPPである。この人々はTPPがそれらの地域の産業空洞化を完成させるものであると理解していた。ヒラリー・クリントンですら、これが支持集めのためには自殺的なオバマの政策の1つであることがわかっていた。しかし、彼女自身が国務大臣の時に熱心に支持していた通商協定に背を向けることは、シニカルでご都合主義であるという印象を与えた。

クリントンにも問題はあるが、それだけでは彼女が選挙で勝利する機会を失う十分な理由にはならない。彼女が沈没した本当の理由は、彼女がオバマの経済的遺産を基盤として立候補したことにあった。それは労働者大衆にとっては絶え間ない失敗そのものだった。それを擁護するのでなく、それから距離を置くことが、おそらくはベターな戦略だっただろう。

1992年の選挙でビル・クリントンの顧問たちは「これは(ブッシュの政策は)間抜けな経済だ」という一貫したキャンペーンを展開した。彼女はそのような助言に従うべきだった。クリントンのデマゴギッシュなライバルのトランプは、風変わりな派手さの一方で、少なくともラストベルトに関する限りは、一貫してこのメッセージを繰り返した。それがすべての違いをもたらしたのである。

© 2016 Foreign Policy In Focus

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