アン・ライトさん論文「北朝鮮問題で前に進む道とは」

アメリカの元陸軍大佐で、外交官としても活躍したアン・ライトさんが、北朝鮮との直接交渉を始めるべきという論文を発表しています。アン・ライトさんは、現在は平和運動家として活動され、日本にもたびたび来られています。憲法九条世界会議関西集会にも参加されました。
この論文「A Path Forward on North Korea」を訳出しましたので、全文を掲載します。なお、訳文についての文責はATTAC関西にあります。英語による原文はこちらから。
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北朝鮮問題で前に進む道とは

北朝鮮との平和条約のための議論は、なぜ朝鮮半島における極度に危険な緊張を解決する選択肢にはならないのだろうか?やっとのことで、北朝鮮について長い経験を持つ専門家たちがこの交渉を公然と呼びかけている。

北朝鮮の指導者・金正恩

ワシントンのシンクタンクの多くは、オバマの「戦略的忍耐」政策は、北朝鮮を苛立たせる制裁や他の圧力に依存していたのだが、核兵器とミサイル計画を減速させるという結果をもたらさなかったこと、そしてその代わりに北朝鮮が核兵器とミサイルの技術研究と実験を拡大する余地を与えてしまったことをようやく認めている。
これらの専門家は、制裁が北朝鮮の計画を減速させなかったことや交渉が必要であることを認めている。
1994年から1997年にかけて軍縮枠組みへと導いた北朝鮮との交渉期間中に国防長官を務めたウィリアム・ペリーは、1月16日付ワシントン・ポストの特別記事面に、西側の中には北朝鮮国民を狂信者だと認識する人々がいるが、それは間違いであり、意味のある交渉は可能だと書いた。
ペリーは次のように書いた。「北朝鮮政府のメンバーと論議したり交渉したりした期間に、私は彼らが理性を欠いているわけでもなく、殉教する目的を持っているわけでもないことに気づいた。彼らの目標は、優先順位で言えば、金王朝を守ること、国際的な敬意を得ること、経済を向上させることだった。」
「私は、今こそ成功するチャンスのある外交に挑戦すべき時だと信じている。われわれは2001年に交渉を打ち切ったとき、核武装していない北朝鮮と交渉する機会を逸した。北朝鮮が核軍備する前のことだった。われわれが今日理性的に期待できるのは、せいぜい核軍備の危険性を減らす合意である。」
「その目標は、核技術を輸出しない、これ以上の核実験を実施しない、これ以上のICBM実験を行わないという合意をピョンヤンと結ぶことになるだろう。これらの目標は、実現する価値のあるものであり、もし成功すれば、朝鮮半島の非核化という後の議論の基礎とすることができるだろう。」
ジークフリード・ヘッカー博士(北朝鮮の核についての専門家で、ロスアラモス国立研究所名誉所長。2010年に北朝鮮核開発計画の一部を見た最後のアメリカ市民でもある)もまた、北朝鮮政府との交渉を呼びかけている。

トランプの特使?

1月12日付ニューヨーク・タイムスの特別記事面で、ヘッカー博士は次のように書いた。「トランプ氏は北朝鮮に大統領特使を派遣すべきである。交渉は、ピョンヤンへの報酬でもなければ、譲歩でもないし、核武装した北朝鮮を受け入れるというシグナルだと解釈すべきでもない。トランプ氏は交渉によって失うものはほとんどない。彼は、北朝鮮に対して宥和的であると見られることの国内政治における損失のリスクを冒すことができる。彼は中国の支援をあてにできるだろうし、北京が制裁強化よりも交渉を好むがゆえに、そのことは重要である。彼はまた、おそらくソウル、東京、モスクワから相互交渉のための支援を得られるだろう。」
「交渉することで、特に耳を傾けることで、トランプ政権は北の安全保障上の関心事についてより多くのことを学ぶだろう。ワシントンは交渉によって、同盟国を守る決意の強さを示し、北朝鮮の人権侵害に対する憂慮を表し、さらに現実的なバランスのとれた進展に対する心の広さを示すことができるだろう。」
「交渉することにより、若い指導者に核兵器なしでも彼の国と体制がうまくやっていけると信じさせるような、よりよい交渉戦略を知らせるのに役立つだろう。」
ジョン・デュラリは、「フォリン・アフェアーズ」(訳注:アメリカの外交問題評議会が発行する外交・国際政治専門の隔月発行政治雑誌)の3・4月号に掲載された「トランプと北朝鮮〜the Art of the Deal(訳注:トランプ自伝の題名)の復活」というタイトルの記事で、次のように述べた。「もし合衆国が本当に緒戦半島における平和を実現したいと望むのなら、北朝鮮経済を抑えこみ、金正恩体制を侵食するための方法を探し求めるのはやめ、ピョンヤンにもっと安全だと感じさせるような方法を見つけ始めるべきである。」
「北朝鮮の核の野望や人権侵害の記録を考えると、これは直観に反しているように聞こえるかもしれない。しかし、次のことを考えてみるべきだ。つまり、自分達はもはや破壊される心配をしなくていいとなれば、北朝鮮は自己防衛の代わりに自らの繁栄に焦点を当てるだろう。そして、安全で繁栄していると感じ、経済的に北東アジアに統合されていけば、自らの核抑止力を放棄することを考えるだろう・・・」
「今のところ(国際的制裁にもかかわらず経済成長しているが故に)金正恩は家にいる方がより安全だと感じているので、合衆国は国境線を安全だと感じるための核武装しないやり方を彼が見つけるように手助けする必要がある。包括的協定はこれを達成する最善の方法であるが、そのためにはピョンヤンとの直接対話が求められるだろう。」
「トランプ氏はまず裏ルートでの交渉を開くことから始めるべきだ。もしそれが十分に進展すれば、ピョンヤンに特使を送るべきだ。その特使は核の凍結について交渉することができるだろう(おそらくピョンヤンの側の善意の象徴として、北朝鮮に囚われている2人のアメリカ市民の解放を実現する交渉も)。トランプ氏はその後、金正恩と彼自身との会談へと到ることになる高レベル交渉を始めることができるだろう。」

交渉の模索

米国外交政策委員会は、今月に北朝鮮政府との非公式交渉を開こうとしている。2003年以来、この委員会はドイツやマレーシアにおいて、他にも交渉を後押ししてきた。委員会はトランプ政権に対し合衆国において交渉が開けるよう要請した。しかし、オバマ政権と同様に、トランプ政権は北朝鮮の核兵器計画が継続されていること及び北朝鮮が2人のアメリカ人を拘束していることを理由に、北朝鮮代表団にアメリカ入国のビザを発給しなかった。
結局のところ、平和条約が朝鮮半島に平和をもたらす鍵になる。北朝鮮に関する肯定的なニュースをメディアが報道しないために、アメリカ大衆にはほとんど知らされていないが、北朝鮮は毎年、64年前になる1953年に朝鮮戦争を終結させるために結ばれた休戦協定に代わって、平和条約を結ぶための交渉を要求している。
2016年1月、これまでの年と同じく、北朝鮮政府は、もしアメリカと韓国が軍事演習を中止し、平和条約に署名するなら、核実験を終了すると特に声明を出した。合衆国はこれに対して、北朝鮮が核兵器計画を終了しない限り、平和条約の交渉は行わないと反応した。これでは暗礁に乗り上げたままである。
しかしながら、合衆国が北朝鮮を攻撃しないことが確約され、そのような趣旨で平和条約が結ばれる以前に、北朝鮮政府が核実験やミサイル発射実験をやめると考えるのは合理的ではない。北朝鮮政府は、自らの核兵器計画によって、合衆国が北朝鮮を暴力的な政権転覆を試みる標的に付け加えるのが防がれていると感じているからだ。
ブッシュ政権およびオバマ政権のもとでアフガニスタン、イラク、シリア、リビア、イエメンに何が起きたのかを見たので、北朝鮮政府は合衆国と南朝鮮による攻撃への重要な戦争抑止力であると理解しているもの、つまり小規模ではあるが増大しつつある核兵器計画を放棄しないだろう。(北朝鮮指導者の金正恩に関する個人的ノートによれば、彼が思い出しているのは、イラクのサダム・フセインとリビアのカダフィが非通常兵器を放棄した後、彼らの身に起こったことだけである)
そして、アメリカは「体制転換」が未だにアメリカの政策であるというシグナルを送っている。毎年の米韓合同軍事演習は、北朝鮮政府転覆作戦を含む軍事作戦計画を実行してきた。2016年の見え透いた演習名は「斬首刑」だったのである。

「フォリン・アフェアーズ」誌の筆者であるデュラリは、金正恩が北朝鮮の核兵器計画とミサイル計画を凍結するのを納得させるためには、最初の段階として、トランプ政権が米韓合同軍事演習を縮小ないしは延期することやTHAADミサイルなどの新たな米軍軍事施設の配備を遅らせることといった安全保障パッケージを立案しなければならないと提案する。

戦争終結

それから、ピョンヤンが長く求めてきたように、朝鮮戦争を公式に終結させる条約の交渉と調印のために、中国、北朝鮮、韓国、アメリカによる4カ国会議を開催することは、北朝鮮の核開発や長距離弾道ミサイルのこれ以上の開発を停止させ、協定順守を検証するために国際原子力機関(IAEA)の査察官が北朝鮮に戻ることを可能にする基礎を提供するだろう。
もちろん、北朝鮮における人権の改善、海外渡航の緩和、海外の人道組織の北朝鮮におけるさらなる自由、政治犯キャンプの閉鎖など他の諸問題が生起するだろう。
しかし、直接交渉だけが金正恩が準備しているかもしれないことを決断させる唯一の方法である。「核兵器を持たないように説得する可能性が10%か20%でもある」限り、金正恩と喜んで会談するとトランプ大統領が選挙キャンペーン期間中に語ったように。
デュラリが書いたように、「北朝鮮が今にも崩壊するだろうという願望に基づいた考えはアメリカの戦略を長期にわたってねじ曲げてきた。オバマの戦略的忍耐は『朝鮮民衆が結局のところ健康で自由になる』日を思い描いていたが、金正恩体制が金正日の死後長くは存続しないだろうという誤った信念によって、その最初の数年間を空費してしまった。」
ヘッカー博士は「交渉は核による破局を避けるためにコミュニケーションの重大なつながりを再確立する必要な一歩である」ことに同意した。
ペリー元国防長官は「われわれは、こうあってほしいと願望している北朝鮮とではなく、今ある北朝鮮と交渉すべきである」と付け加えた。
北朝鮮の人々は賢明で、立ち直りも早い。歴史家が記録したように、彼らの国は朝鮮戦争中にアメリカによって意図的に破壊されたが、彼らは最小限の外国からの支援により可能な限り国を再建した。しかしながら、1990年代初めのソビエト連邦の崩壊以降、過去35年間外からの援助が実質的はなかったにもかかわらず、そして過去10年間以上国際的な制裁が拡大してきたにもかかわらず、北朝鮮は核計画とミサイル計画を発展させ、衛星を打ち上げることができた。もちろん市民のための社会・経済計画に投資することを犠牲にした上のことではあるが。
もし、国際社会が本当に朝鮮半島における緊張を解決し、北朝鮮国民に国際社会に復帰する機会を与えたいならば、北朝鮮が生き残りのために必要とする保証を与える平和条約は、最初の一歩となる。それは決して最後の一歩ではないのである。

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