連続学習会「石油・武器・麻薬 中東紛争の正体」最終回

4月2日の連続学習会は、「「石油・武器・麻薬 中東紛争の正体」の最終回で第6章をやりました。報告者のレジュメは、この投稿の最後に掲載しています。
第6章「武力で平和はつくれない」では、著者は「女子教育~日本の技術力」までの前半の項で、日本にできることの提案をしています。「経済的利益優先」以降の後半の項では、一貫して、軍事援助や防衛産業への依存や、軍事的介入を批判し、中東の希少な安定国であるイランとの経済活動の進展を勧めています。
また「おわりに」の項では、トルコを訪ねた時の経験をひも解きながら、最後に『私たち日本人は、日本と異なるイスラム宗教文化や社会の特性を忘れず、「平等」や「相互扶助」に敬意を払いながらこの地域と交流していかなければならない。』と結んでいます。


ATTAC関西グループ・連続学習会                      2017/04/02
『石油・武器・麻薬 中東紛争の正体』(宮田律・講談社現代新書2015) 第六章・附録

第六章  武力で平和はつくれない ―― 日本にできること(p.191~212)
ペルシャ湾岸諸国の安定を図ることは、日本経済に必要不可欠。
特に女子教育への支援:女子の社会進出が教義的な理由から遅れているイスラム社会

*女子教育への支援(p.192-193)
(例)・女子教育向上プロジェクト(BRIDGE)/イエメンとJICA2013年12月2年9ヶ月延長を合意
      (アラブの春で2011年3月に中断されていた)
イエメンの初等教育(小1~6年)の純就学率:男85%:女65%、成人識字率:男76%:女39%
・女子専用工場:女子だけが働ける工場が必要:ユニ・チャーム 2012年5月サウジアラビア

(利)女性の社会進出を促し、修正率を下げ、雇用の調整をもたらす。
政財界への進出→政治を成熟させ経済発展の原動力
女子教育への支援を通じて良好な対日感情をつくる→日本の安全保障を高める※1。

*地球温暖化と食糧安全保障危機への貢献(p.194-198)
(理)中東や北アフリカの紛争には、地球温暖化(→砂漠化)と農地の減少が深く関わる※2。
 サへール地帯(サハラ砂漠の南、東西ベルト)で砂漠化による農地減少、貧しい経済状態の要因。
  人間開発指数2011(生活の質や発展の程度を示す指標)の順位(187ヶ国中):ニジェール186位、マリ175位で、ジュニジアの事件の実行犯「アンサール・アル・シャリーア」の活動
(例)・遠山正瑛(1906-2004):1980年から内蒙古自治区エンクベイ砂漠での緑化研究
            募金を募り、2001年までに成長の早いポプラを300万本植える。
・中村哲医師:ペシャワールの会:パキスタンやアフガニスタンで30年あまり支援。(医療)
→井戸掘り、灌漑設備の整備、農地造成など民生の安定化への支援(本来の積極的平和主義)。
・小麦の新品種:稲塚健次郎:インドやパキスタンではこの品種によって小麦生産高が四倍※3。
(利)・遠山氏の砂漠の緑化は「イスラム過激派」による暴力の抑制や日中関係の改善にも教訓を与える。
・紛争地域や不安定なイスラム世界の人々が日本に期待するのは、民生の安定化への支援。
・限られた農地や食料をめぐって紛争が発生(南スーダン)。シリアでは旱魃による農地消失
→反政府活動へ。社会的安寧の担保をISに期待。国際平和への関与のあり方を食糧安全保障の
観点からも。

※1:Gコメント:好感の反日感情の両方を予想する必要がある(女子教育に反対の立場の人)
※2: Gコメント:サへル地帯は「北のサハラ砂漠より比較的湿潤で、半乾燥草原から灌木の茂るサバナへの移行地帯」 この緑地が砂漠化した原因は、放牧→漢人農民の入植など農地化や過剰使用との指摘もある。→澎湖島のニガウリ日誌↓ (緑化は農地化とセットと批判している)

NGO緑のサヘルでも、(気候変動を含む)「自然的」な要因の他に、「耕作地拡大のための森林地の開墾、商品作物や穀物の連作、家畜の過剰放牧など、当たり前の「人間活動」も大きな要因」としている。
※2:Gコメント:「緑の革命とその暴力」の反論や遺伝子組み換えは? 人口増大→農地減少→紛争?


*イスラム世界で評価され続ける日本の技術力(p.198-201)
(例)・日本の中古車、日本製テレビなど家電:故障しにくく、丈夫で長持ち
・炭酸飲料:ドバイ輸入増:2010時、前年比13.8%増。シェア:日本79.5%、オーストリア6.9%。
・護岸工事(1980年代ペルシャ港湾):韓国企業施工部分がひび割れ、日本部分は異常なし。
(理)イスラム社会での評価:日本の戦後の経済発展、高い技術力、勤勉ぶり、礼儀正しさ。
評価を受けないのは、湾岸戦争やイラク戦争での米国追従の外交姿勢。
イスラエルとの防衛協力(F35等、軍事部品)→パレスチナ人の犠牲の可能性。
(利)日本製品に対する信頼や良好な感情→日本人の安全保障。:イスラム世界の人々の感情を大事に!

*経済的利益優先は「負の貢献」(p.201-203)
(例)サウジアラビアへのF35戦闘機20機売却、イスラエル反対せず。米国の軍事同盟国サウジアラビア王政は、イスラエルのヨルダン川西岸への占領政策、ガザ攻撃に批判を加えることがない(イスラエル・ネ政権2014年夏、ガザ攻撃2000人以上の犠牲、201503パレスチナ国家を認めないと表明)。
(理)2014年5月日本・イスラエル共同声明署名・防衛協力強化や武器輸出三原則の緩和→日本の防衛関連産業を潤す(←F35部品の40%以上は日本が製造)。一方、日本人のイメージを著しく低下、日本人が武装集団の標的など、日本の安全に役立たない。→中東の紛争や不安定の拡大に「貢献」を意味。
(疑)毎日新聞社説20140514<米・イスラエル・日本3国の協力関係が平和と安定に結びつくと期待>

*誰が責任を取るのか(p.203-205)
・経済向上を上向かせることを至上命題とする安倍政権にとってなりふりかまわぬ「成長戦略」
・産業界の強い意向:防衛省から受注:三菱重工業2632億円(17%)、川崎重工業1913億円(12%)、
防衛関連企業上位20社(内10社が経団連の役員)1兆1400億円(72.4%)。防衛産業委員会の委員長、三菱重工業の社長が就任。意向→20140401「国家安全保障戦略」武器輸出三原則を「防衛装備移転三原則」へ→経団連会長→「歓迎する」、20150910武器輸出を「国家戦略として推進すべき」
・安保法制は防衛関連産業の利益拡大を図ったものであり、国民の安全は後付け。
・ノーベル経済学受賞者ジョゼフ・スティグリッツ:「戦争経済」が世界を不幸にする。

*軍産複合体が日本を不幸にする(p.205-206)
・20150313政府は国連平和維持活動(PKO)以外で自衛隊が行う人道的な活動、「復興支援」「停戦監視」と「安全確保」治安維持任務を可能にしたいとの意向。
・PKO協力法改正し、「隊員の声明・身体を守るため」→「任務遂行を妨害する行為を排除するため」にも行える:ISが住民を襲撃している場合でも自衛隊の武器使用が可能。
→かりに現地住民を自衛隊が誤射する事態になれば、日本のイメージは著しく低下する。
・防衛費11年ぶりに増額の2013年度から3年連続で増え、2015年度4兆9800億円。
→三菱重工:2014年3月期の連結決算、前年比22.9%増。:防衛予算との増額と関連する。
・米国2011年660億ドル(7兆9200億円)の売却契約:世界市場の80%。米国の軍産複合体、米国を戦争に絶えず仕向ける重大なファクターとして作用。戦争による巨額の利益を得て、また、国防総省が軍需産業の予算を確保。
・日本の軍産複合体が国民を不幸にする事態には絶対にしてはならない。

*イランは本当に脅威なのか(p.206-209)
・安部首相:集団的自衛権行使(軍事力に訴える)ケースは、
「存立危機事態(独立が脅かされ、日本国民の生命が失われる明白な危険生じる場合)」として、
「ペルシャ湾が機雷で封鎖されたようなケース」を想定している。
(疑義)封鎖されても日本の独立や日本人の生命が脅かされるわけではない。
欧米諸国がイランを攻撃しても、ペルシャ湾が機雷で封鎖する可能性のある国は見当たらない。
・イランの「核の脅威」:イスラエル・ネ首相のイランを極度に警戒する独自の安全保障観。
シーア派を異端視するサウジアラビアの王政の意向。
    → 強調に米国が乗ってきた。
・イラン戦争があるかのような議論は、イランに対する外交的無礼。
 その事態になっても、米国の特殊な事情。後方支援に回ることが、日本人の利益にならない。
・201507国連安保常任理事国+ドイツとイランの核エネルギー開発の合意(サウジアラビアは不満)。
→安部首相:ホルムズ海峡封鎖の想定撤回(201509)/イランは日量150万バレルの生産可能に。

*中東の希少な安定国(p.209-212)
・核合意で中東の希少な安定国に。石油・ガスなど天然資源豊富、8000万人の人口は市場として魅力。
→EU外務・安全保障政策上級代表、フランス外相(12年ぶり)、ドイツ副首相・経済界代表イラン訪問。
 ドイツのイラン向け輸出:2014年24億ユーロ(3300億円)、制裁解除で2年間で倍増見込み。
・1580億バレルの石油埋蔵量(世界2位)、34兆m³ガス埋蔵量(石油2400億バレル分、世界の18%)
・ガスパイプライン:トルコやパキスタンだけで無く、ヨーロッパの需要にも対応、インドも。
 7000万トンの液化天然ガス生産計画(2005-10)経済制裁のため実現できなかった。→生産可能に。
・石油生産:2009-11間日量350万バレル、250万バレル輸出。
→経済制裁で半減→日量200万バレル以上の輸出には、1800億ドル(21.6兆円)の投資が必要。

イランが望むのは多少の内外の政治変動にも影響されない、長期にわたる諸外国との契約。
豊穣なエネルギーや人的資源を考えると、国交のない米国を含めて、イランに対する強い経済的関心は当面続く。

おわりに(p.213~219)
*2015年9月トルコを訪ねて(p.213-214)
・シリア難民(20代女):「トルコはシリア難民が多すぎて認定されないのでヨーロッパへ行きたい」
・同(ストレート・チルドレンたち):(学校より)「今はお金が欲しい」
:ペットボトルの水やティッシュペーパーを1トルコ・リラ(40円)で売っていた。
・同(52歳男):アレッポの理髪業、爆撃で妻と子を失う。土産物のネックレス20リラ/1個

*「資産」としての親日感情(p.214-216)
・トルコの日本人に対する感情はやはり良好。
1985年のイラン・イラク戦争の際、テヘランに残された日本人を救出すべく、トルコ政府は2機の航空機を派遣し、200人法人脱出に尽力。対して日本が受け入れたシリア難民は僅か3人。
 好かれる理由:トルコ国営放送で日本映画、マナーの良さ、エトワール号海難事故対応(1890916和歌山県沖で台風に遭遇して沈没。大島島民の生存者救助、介護、遺体捜索・引き上げを行い、義捐金が送られると共に、生存者は189101オスマン帝国に日本の戦艦で帰国)。

*イスラム同胞意識、平等観、相互扶助(p.216-218)
・「AID」の活動:イスタンブールで、シリアの難民の子どもたちの心のケアをする団体。:紛争後の人々の心の癒やしも重要。トルコの若い女性が、難民の子どもたちに造花の作成指導。
・セリム・ジャーミィ:イスタンブールで、最も大勢のシリア難民の子どもたちの支援を行っているモスク。生活に困窮する」弱者の救済は神の意志に従う。:経済交流をする場合、宗教観の敬意も必要。
・ボートの切符切りの少年:中国人は嫌い、トルコ系のウイグル人を弾圧。
スカーフ禁止、断食をさせないなど。
・トルコは同胞意識が強い国。トルコの人権活動家の殺害→1万人の抗議集会。
 「もし、自衛隊が無辜のムスリム市民を殺害したら、日本に対する良好なイメージは崩れるだろう」

私たち日本人は、日本と異なるイスラム宗教文化や社会の特性を忘れず、「平等」や「相互扶助」に敬意を払いながらこの地域と交流していかなければならない。


附録  イスラムの経済倫理と飲食の教え(p.219~252)
・日本に来るムスリムが増えるに応じて、ムスリム用の配慮が必要となる。
・イスラムの経済倫理は、イスラム世界との交流を行う場合も必要だが、経済に起因するイスラム社会の政治変動や武装集団台頭の背景などを理解する上で欠かせない。
・ムスリムが守るべき五つの行いとして「信仰告白」「礼拝」「喜捨」「断食」「巡礼」という基本的な義務を求めていて、イスラムの基本的価値観を表し、ひいては交流において非常に大切な考えをも示す。

*信仰告白-神と預言者の存在を確認する(p.220)
・信仰告白:「アッラーの他に神はいない。ムハンマドはその使途である」と唱える。
→信徒のイスラム共同体参加を意味する。
 →ムハンマドが神と人間の橋渡しであり、最後の預言者であり、イスラム共同体の規範を表す。
この信仰告白によって、ムスリムはイスラムに帰依し、またイスラム共同体の一員であることを繰り返し自覚するようになる。

*礼拝-コーランの啓示を思い出す(p.220-224)
1日5回の礼拝と金曜日の集団礼拝への参加は、神への尊敬の念を信徒が養うために行われ、特に集団礼拝は祈りの統一性を強調し、信徒間の連帯と結束を強化する目的がある。
・礼拝でコーランの啓示を思いだし、信徒は単一の共同体に属していることを自覚する。
・集団礼拝を行う金曜日は安息の日ではない(多くのイスラム諸国は日曜が休日だが名残か模倣)。
・礼拝を通じて「慈悲」と「平安」の心が養われると考えられている。「慈悲深く仁慈あまねくアッラーの御名によって」「あなたがたに平安あれ」の礼拝のフレーズを繰り返す事によって「慈悲」と「平安」の心が自ずと養われる。
・直立、屈伸の立礼、財、平伏という一連の動作からなる礼拝は、理想的な全身運動。それに集中すれば、病人の不安を取り除き、病気に立ち向かう精神力を与えてくれる。節食と、怒りや心配、悲しみなど過度の感情の抑制も健康の維持のために説かれる。

*喜捨-イスラムの平等観の体現(p.224-226)
喜捨:貧者を救うための財産税であり、毎年蓄積された富や財産に対して課せられる。
・貧者、孤児、未亡人を支援し、奴隷や債務者を解放するために、また、イスラムの普及のために用いられるべきことを説く。社会的平等を説く宗教であり、相互扶助。
→神の前の人々の平等を説いているはずなのに、途方にもない貧富の格差という現実との不一致。
・貧者の高潔を保ちながら、共の分配を図る制度。物乞いをせずに金を受け取ることは、人々の純血を維持し、富裕な者に対する妬みの心が湧くことを押さえる役割。
・富裕な者と貧者の絆を強め、窃盗、暴力行為、その他の社会的病弊を減じる。

*断食-神を思念し、貧者の苦しみを知る(p.226-228)
「断食」(ラマダーン)月※の断食は、日の出から日の入りまで行われる。この断食によって神の存在を強く思念し、意識するようになる。ラマダーンは時勢と精神的鍛錬の期間でもあり、神の導きに対する感謝や、過去に犯した道徳上の罪を贖い、人間の弱さとまた神への依存を自覚する。断食は、心身を清らかに保つことを目的とするとともに、ムスリムに貧者の苦しみを共有させ、他者へのおもりやりをはぐくむためのものである。
・日没後モスクで礼拝、コーランを毎朝朗唱、街頭でのコーランの詠唱、イスラム神秘主義の儀礼等。
・食事はおろか、ツバを飲み込むことや、喫煙、性行為さえも禁じられている。
・戦闘中の男子、旅人、病人、妊娠中の女性、幼児、幼児を抱える母親たちは、断食を免除される。
・ラマダーン期間中は食事の消費量は多くなる。一部では特別な料理や菓子が用意される。
イスラムの予言者ムハンマド「真の豊かさ(幸福)とは、莫大な富を所有することによって得られるものではない。真の豊かさとは、魂の豊かさ」
※ヒジュラ暦(イスラム暦)の第9月のこと。太陰暦なので、毎年11日ほど早まる。

*巡礼-ムスリムの心を洗う行事(p.228-230)
メッカへの巡礼:人生に一度は行うべきで、健康で経済力のある者に義務づけられている。
巡礼の対象の中心は、カアバ神殿。:預言者アブラハーム(イブラーヒーム)とその息子イサク(イスマーイール)によって建立。イスラム成立以前より巡礼の対象であり、さまざまな部族の偶像が祀られていたが、ムハンマドがメッカを征服した時に唯一神アッラーを進行する場所に変えられた。
・巡礼の間性行為や狩猟は禁じられている。
・メッカに近づくと「主よ、われわれはここにいる」と唱え、メッカに入るとカアバ神殿のある大モスクに進んでいき、時計とは反対回りに7回神殿の周囲を行進。
・様々な儀式があるが、アラファトの丘への訪問が重んじられる(ムハンマドが最後の預言)。
→ 民族、人種、経済、性の相違を乗り越えたムスリム共同体の倒立や平等を自覚することになる。
巡礼は「生け贄の祝宴」で終わる。:神がアブラハムに息子であるイサクを生け贄にするよう命じたことを記念する。悪魔の誘惑を拒絶したことに倣って、再び悪魔の石柱へ投石。イサクに変えて雄牛を生け贄にすることを神から許されたように、ヤギやラクダなどの動物を生け贄にする。:彼らにとって最も重要なものを必要な際には犠牲にすることを体験する。生け贄の家畜は貴重で生活に欠かせないものの象徴。儀式で使用された肉はその場で消費されるものの、貧しい人々に配給される。
・巡礼を行うことは、ムスリムに大きな誇りを与える。

*共同体意識を育てる五行(p.230-231)
・五行は平易で解りやすい。ムスリム各個人によって純所の仕方は異なる。
・共同体意識が強く備わりすべてのムスリムの連帯意識を強化する。他の宗教より特徴的。
近年、イスラム世界と欧米の衝突構造が強調されるようになっているが、ムスリム側の共同体意識や連帯感もその構造を理解する一つのカギとなるであろう。

*イスラムの経済観(p.231-234)
イスラムの原則を取り入れたイスラム銀行が預金額を増やしている。イスラム的経済知識の普及要。
・イスラムの宗教原理に基づく。経済も共同体全体の利益を考え、「正義」に裏付けられたもの。
→産業化や欧米モデルの近代化が進行すると、イスラムの経済理念とかけ離れた現状や矛盾。
・隊商の執事であった預言者ムハンマドは、経済の公正や経済活動における権利に多くの関心を払うことによって、商取引の実際的知識を得た。交易は製造と同様重要な経済活動。物の分配やセールスがなければ、製造も無価値になる。
・非生産的:何もしないで報酬があること。:ギャンブルや他者の搾取。働かないで報酬を得られる利子は不当。不正で、不誠実な取り引きは明確に否定。物質的な財産の所有を競い合うことも有害。隣人の財産をうらやむことも望ましくない。
・交易を重視する社会的伝統→バザールの活気。言い値による交渉が商取引の中心だが、交易における誠実さがコーランで強調。正当な利益以上に稼いではいけない、公正な賃金、適正な価格。偽りの広告の戒め・交易の結果もたらされる資本の蓄積は、賞賛に値する。
・富は神に仕える手段。それ事態が目的となってはならない。富の所有について相違や格差を認めながらも、イスラムではすべてのムスリムが十分与えられていることが重要。
・二つの原理:財産は神に属する。完全な平等は必要でも無く望ましくもない。

*「利子」の取り立てを禁ずるイスラム(p.234-237)
・「利子」に様々な解釈。アラビア語の「リバー」を単に「利子」としない判断(UAEの宗教裁判所)。対して、たいていのイスラム経済学の学者は、「リバー」を「利子」とと解釈。
・特に暴利禁止。貸して裕福&借りて貧しく&利子介在→経済的不平等拡大と戒める。
→消費や生産、交換において、利己心を抑制することで多くの問題が解決できると考える。
・不正な収入:果実の木を花が咲いている段階で売却しない。
→実を結ぶ予測出来ない→売り手に必要以上の収入、購入者に損を与えるかもしれない。
・イスラム経済学者ウメ・チャプラなど:経済活動の堕落が、同胞意識を弱め他者の必要を忘れる。
経済における道徳性の低下は、喜捨の慣行の希薄化や利子をとらないイスラム銀行の不足を招いた。
→ 道徳教育。喜捨を法的に強制する国。

*現代イスラムの経済思想(p.237-238)
①欧米の経済原理に対して、イスラム経済の倫理的優位性を説く。
②「リバー」の禁止で、利子をとらないイスラム銀行の形態を望む。投機や浪費的消費の禁止。
  (生産意欲減退、価格の高沸、経済発展に必要な資金を奪う)
③喜捨の重要性を認める。
(植民地主義→非宗教的な世俗政府は、非効率的で官僚的かつ役に立たない福祉制度を確立)
・現代のイスラム経済理論に共通することは、原理をコーランに求めること。
・イスラム社会では目下のところ、欧米の経済学の研究の方が優位。イスラム経済の考えが銀行や政治運動へ、政治・社会・経済の分野でのイスラム主義の台頭→イスラム経済の研究や考察が活発化。

*経済的平等主義を唱えるイスラム(p.238-241)
ムハンマドは、部族意識を超えるために平等を説いた。
・富の源泉と生産手段はウンマ(イスラム共同体)の利益のために用いらなければならない。
 →ウンマの安寧は、個人の自由をある程度制限する。
・ある程度の富の偏在を認めるが、ザガード(喜捨)、サダカ(任意の寄付)、ワフク(モスク、学校、病院などを建設・運営するために宗教的寄進財産)を制度化。
・企業活動や私的財産の保有を是認するが、社会正義と普遍的善との整合性がなければならない。
・人権と経済的権利は分かつことができない。経済的権利の実現は人権擁護の重要な部分。
・合法的に獲得して、有益に費やす個人の財産は保護が求められる。窃盗、強盗は厳罰。
ただし、財産の保護のために、暴利、不正な商行為、占有、契約の強制、虚偽の宣伝は禁じられる。
ムスリムと経済交流を行う場合は、イスラムの教義に敬意を示し、誠実、弱者を考慮して救済したりすれば、円滑にいく。粘り強い交渉とビジネス相手の顔を立てる(メンツを重んじる傾向がある)。
・「公平・平等の原理に相容れない過度な利潤や富の追求を背景に、保護が義務づけられている女性、子ども、老人という弱者を犠牲にする紛争が発生していること」も知っていたほうがいい。
・ビジネスの具体例として、イスラムにいて実践的に知るために、「ハラール」を取り上げる。ムスリムに対するおもてなしには欠かせない知識。

*年々注目が高まるハラ一ル料理(p.241-244)
ハラ一ル:イスラムで許されたものを意味し、豚やアルコールの成分が入っていない料理。
認証マークがある。例)醤油の成分にアルコール:× → ハラール醤油の登場。
・インドネシアやマレーシアからの観光客増。
・ハラール認証をクリアすれば、世界のイスラム教人口約18億人、2.1兆ドル(252兆円)、食品だけでも5800億ドル(69.6兆円)の巨大市場。

*自治体や企業による取り組み(p.244-245)
・栃木県太田市(畜産業が盛ん)、山梨県やまなし慣行推進機構、イスラムに関する講演。
・吉野家:インドネシア向け生産ラインを別に設け、ハラール認証。
・すき家:クアラルンプールに開業、ハラール肉を使用。
・京都のカフェレストラン「ル・タン」ハラール認証。
・キューピー、大正製薬、ヤクルトなど、ハラール認証。


*イスラムで推奨される食べ物(p.246-248)
食事に関するイスラムのルールによって、ムスリムは常に神の意志や教えを知ることになる。
・良き野菜や動物を食べることを進めている。暑い夏に負けない食べ物。
・健康こそは人の幸せ:質素な生活、さほど栄養価の高いものを食べない。
・食べても良いとされる肉でも、殺し方が決まられている。

*豚肉を厳に禁ずるイスラム(p.248-249)
・死肉、血、豚肉、およびアッラー以外の名で供えられたもの。ただし、故意に違反せず、また法を超えず必要に迫られた場合は罪にならない。アッラーは肝要にして慈悲深い。
・豚:不衛生・不健康な動物として信じられている。

*飲酒の厳禁(p.250-252)
7世紀にイスラム教成立。アラブの慣習は次第にイスラム的基準に変わっていった。
・もともとアラブの習慣「間引き、貧民への搾取、高利貸、虚偽の契約、私通、窃盗」が禁じられた。
・飲酒とギャンブルは、明確に禁時られたわけではなかったが、次第に戒めるようになった。
・飲酒は、イスラム諸国の国や地域によって相違や多様性がある。サウジアラビア:厳禁
・大麻やアヘンなどの麻薬:一部で使用される。コーランやハディースで明確に禁じられていない。
 →イスラム法学者は、禁じることを説く。
・飲酒と麻薬をシャリーア※の適用によって厳格に禁じる動きがある(外国人にも)
 麻薬は例外なく禁じているが、アフガニスタンは麻薬の原料となるケシの世界最大の生産国。

※シャリーア(アラビア語: شريعة‎ Shari'a)は、コーランと預言者ムハンマドの言行(スンナ)を法源とする法律。1000年以上の運用実績がある。ローマ法を起源としないイスラム世界独自のものである。イスラム法、イスラーム法、イスラーム聖法などとも呼ばれる。(出典Wikipedia)

【メモ】
第六章  武力で平和はつくれないでは、女子教育~日本の技術力までの前半の項で、日本にできることの提案をしている。
経済的利益優先~後半の項では、一貫して、軍事援助や防衛産業への依存や、軍事的介入を批判し、
中東の希少な安定国であるイランとの経済活動の進展を進めている。

おわりにでは、トルコを訪ねた時の経験を紐解いて、最後に『私たち日本人は、日本と異なるイスラム宗教文化や社会の特性を忘れず、「平等」や「相互扶助」に敬意を払いながらこの地域と交流していかなければならない。』と、結んでいる

附録 イスラムの経済倫理と飲食の教えでは、最初の6項目でイスラム教自身の説明、次の5項目で、イスラムの経済観、平等や共同体意識、の説明、最後の5項目では、イスラムの飲食について紹介すると共に、イスラムの人々との交流やビジネスに欠かせない知識と説き、ハラール料理への参入を進めている。


私が、参考にした書籍として、
イスラーム世界全般、イスラム国、イスラム経済、それぞれについて、
・小杉泰「イスラーム世界を読む」NHK人間講座テキスト 2002年4月~5月
・国枝昌樹「イスラム国の正体」2015.朝日新聞出版
・吉田悦章「イスラム金融はなぜ強い」2008.光文社

また、※2:Gコメントで紹介した下記で、多収量品種が、巨大ダム開発による水の独占、化学肥料による土壌の劣化など、農民のコスト負担と商用作物依存など、かえって貧困化や紛争(宗教戦争と、されているが)を招いていると指摘している。
・ヴァンダナ・シヴァ著・浜谷喜美子訳「緑の革命とその暴力」1997.日本経済評論社

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