「グローバリゼーションとインドにおける影響」〜ジャフリさん講演(GJ研究会5月例会)

5月5日、京都・ひとまち交流館で、グローバル・ジャスティス研究会5月例会が開かれました。Focus on the Global Southのアスファー・ジャフリ(Asfar Jafri)さんが「グローバリゼーションとインドにおける影響〜新たな脅威としてのRCEP」と題して、講演しました。ジャフリさんは、横浜で開かれているアジア開発銀行(ADB)第50回総会に対抗するシンポジウムのために来日中です。以下,ジャフリさんの講演要旨ですなお、文責はATTAC関西にあります。

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Focus on the Global Southはバンコクに本部があり,フィリピン、カンボジア、インドにグループがある。ラオスも活動範囲にしている。
インドについて、日本では「経済発展が凄い」というばら色の情報が伝わっているだろうが,現実は違う。高速鉄道がスラム地域の上空を走り抜けている(スカイトレイン)。「輝くインド」と「苦しんでいるインド」の二つがある。モディ首相は「輝くインド」だけを相手にしている。
新自由主義的グローバリゼーションがインドに何をもたらしているのかを話したい。1990年代、インド政府は世界銀行が提唱する構造調整政策にもとづいて政策を進めた。構造調整政策は、経済のあらゆる部門を民間に開放し、インドの自然資源を略奪していくことに向けられた。それがインド社会の分裂をもたらした。
こうした政策の結果、数多くの億万長者が生まれた。10億ドル以上の収入がある人は2010年に49人だったが、2017年には101人に増えた。これはインドで貧富の格差が拡がったことの象徴の一つだ。
インド・ルピーの億万長者は、2010年には657人だったが、いまは1000人を超えている。こういう億万長者は、自然資源を自分たちのものにすることで富を得てきた。その結果、この20年間で貧富の格差が拡大した。
貧困は解消されるどころか、ますますひどくなっている。国連の人間開発報告書によると、インドの人間開発指数(注:平均余命・教育・所得の複合指数)は、2000年には162か国中115番目、2011年には187か国中134番目に悪化した。乳児幼児死亡率も、1000人あたり66人で、ネパールやスリランカより悪い数字である。企業に利益をもたらしている成長がトリクル・ダウンで下に降りてくることはなく、貧困を拡大しているだけだ。

次に農業と土地の問題をみてみると、農業分野は「輝かしいインド」と「苦しんでいるインド」の対比がもっとも顕著になっている。GDPに占める農業の比率は、数十年前には50%だったが,15%に落ち込んだ。しかし、農業に依存している人口は減っていない。人口の6割、約8億人が農業に依存して生活している。農家の75.42%が1ha以下の土地しか所有していない。
また、農民の自殺が増えている。1995年からの20年間に30万人以上の農民が自殺した。種子の価格上昇,化学肥料や農薬の使用コストの上昇など、生産コストが上がり続けている一方、グローバル化のもとで農家に対する補助金を政府が減らしているからだ。化学肥料や農薬の使用は、健康に対しても影響を与え、農民の中でガンの発症が増えている。
農民の借金地獄が深刻化している。これは、米などで大量の水が使われ,水不足で収穫量が減るなど農家の収穫率が下がっている一方で、販売に当たって農家に入る収入は非常に少ない。政府統計でも,農家の収入は1ヶ月5,400ルピー(日本円では1万円くらいの月収)に過ぎない。多くの農民は,農業をやめて、都会に出て非常に低賃金の仕事に就いている。2011年の数字では、毎日2,400戸の農民が都市に移動している。低収入のために栄養不良,病気が増えている。
こうした状況を招いた原因は、グローバル化といわゆる「緑の革命」である。「緑の革命」で起こっている問題=土壌の喪失、塩害、土壌の栄養分喪失,土壌汚染、地下水位の低下などである。水位の低下は、700m掘らないと地下水に到達しないほど深刻である。
モディ政権は、農業を企業に一層開放するという政策をとり続けてきた。農業を放棄せざるをえない状況を強制することで,その土地を企業に回すことができるようにしてきた。農業に関わる一連の法律は、土地取得手続の簡略化、経済特区の設置、農産物輸送手段としての鉄道敷設などで、企業が農業をする条件を作ってきた。契約農業の制度導入のための法律や、官民パートナーシップといった事業を拡大してきた。農民に対して、農業をやめて都市の低賃金労働者になる圧力になってきた。しかし、技術はないので、建設関係の肉体労働に就くことになる。

グローバル化のもう一つの影響として種子の問題がある。インドの農家は、いまでも種子は自分たちで蓄えたものを使っている。種を保存し、かけあわせて、新しい品種を作るという伝統があった。しかし、新しい政策のもとで、自分たちで交雑することができなくなり,市場で種子を買うようになった。政府は、換金作物に重点を置く政策をとっている。換金作物の栽培は、モンサントなど企業から種子を買わないとできない。グローバル化と巨大種子産業はインドの農業を大きく変えた。農民はますます企業から買う種子に依存するようになった。
種子の変化に伴って、農耕の方法も変化してきた。従来は自給用作物中心だったが,換金作物に代わってきた。種子購入にお金がかかる。遺伝子組み換え作物が導入されれば、企業への依存がますます強まることになる。種子の原価は、伝統的トマトの場合,農家生産だと400ルピーだが、市場で買うと50000ルピーかかるなど、非常に価格が高くなっている。しかも、種子企業の企業合併、独占化が進み、ますます価格が上昇している。

食品部門におけるグローバル化の問題もある。1997年に、食料価格の補充対象を貧困ラインの上と下で異なる基準を適用するようになった。それまでは補助は一律だったが、今では貧困ライン以下の人だけが食料価格の補填を受けられる。それは、食糧自給から、輸出に力を入れるようになったから。

企業は、大規模な土地取得による収益の最大化を求めて,土地を買いあさった。農地の私有化,土地の囲い込みが急速に進んだ。全土で土地をめぐる紛争が起きている。特に多いのは、企業が先住民族、少数民族を含めて、鉱山の近辺にすんでいる人たちを追い出す例だ。原発建設、特別工業地域の設置,工業団地建設、デリーとムンバイを結ぶ巨大な回廊地域の建設などが、それぞれ住民の立ち退きを伴っている。デリー・ムンバイ工業回廊地域には、日本のJICAが関係している。このプロジェクトでは,幹線道路の両側200kmにわたって、工場、空港の建設などが計画されている。

グローバル化と世銀の圧力で、2001年ごろから水政策が変更され始めた。水は「誰でもが入手できる公共財」ではなくて,「商品」と位置づけ直された。水の民営化計画がいくつかの州で計画されている。飲料水の民営化だけでなく、灌漑用の水や川の利用権も民営化されている。川と川とを結ぶプロジェクトも。

最近の経済情勢についてだが、モディ政権は「インドの経済は成長している」「雇用も問題ない」と言っているが、実際はどうか?モディ政権誕生の時点に比べて、ルピーの価値は下がった。その結果としてインフレが起こり、インドから産業が出ていく現象が起きている。輸出も減っている。にもかかわらず、インド政府は先進国とのFTAを進めてきた。インドは80ヶ国に対して貿易赤字を計上しているが,そういう国とFTAを結んでいる。いままでに11ヶ国とのFTAや4つの集団的FTA(ASEAN、韓国,日本など)が締結され、現在ではRCEP交渉を進めている。
一連の自由貿易協定を通じて,人々はますます苦境におちいっている。遺伝子組み換えの綿花が導入されたこともあって、自殺者の多くは綿花栽培の農民である。また、食用油は66%以上を輸入に頼っている。2000年に関税を引き下げたことによって、輸入食用油が大量に流入した。油の自給率は1994-5には98%だったのが、2002-3には53%に下がった。にもかかわらず、RCEPに参加しようとしている。インドは中国との間の公式の通商協定は結んでいないが、中国からの安価な品物が輸入され、おもちゃやドアの鍵産業は壊滅的な状況である。中国を含めたRCEPが結ばれれば、影響がもっと大きくなる。加盟国の人口は35億人になり、世界貿易の12%を占め、対象としている領域も非常に広範だから。TPPよりも大きな影響を与えるだろう。
RCEPはTPPと同様に、透明性が欠如しており、完全に秘密に交渉がおこなわれている。インドの議会や州政府も何も知らされていない。5月にマニラ、7月にインドで会合が開かれる。いくつかの作業グループに分かれて交渉がおこなわれている。農業分野について見ると、各国は補助金を支出している。日本は14136ドル、インドはわずか99ドル。ECEPでは補助金については何も言われておらず、関税はほぼゼロにすると言われている。RCEPで安い農産物が入ってくれば、ますますインドの農業は崩壊するだろう。
知的財産権の協定をさらに強化したTRIPSプラスが協議されている。薬品,農薬に関するデータの独占的所有権が認められれば、後発医薬品(ジェネリック)開発が非常に困難になる。なぜこの問題が重要かといえば,たとえばC型肝炎の薬は、インドでは日本と比べて1%強の価格で入手できるが、高い薬を買わなければならなくなる。ジェネリックを輸出しているインドの製薬産業に大打撃となる。
TRIPSプラスのもう一つの問題は、種子の特許に関する規定(ユーポス91)を組み込むことを日本とオーストラリアが強く主張していることだ。いまは農家が種子を保存して、交換したりできる。しかし、UPOV(ユーボヴ)91が導入されれば,それができなくなる。種子の特許権を意図的に侵害した場合には、刑事罰を課すことを日本は主張している。さらに、日本は微生物への特許導入を主張している。
RCEPと投資の自由化の問題で重要なことは、企業が政府を裁判にかけることができることだ。政府の政策や法律が変わったことで,企業が損害をかぶった場合,企業が政府に賠償を請求できる。たとえば、去年、コロンビアでガンの治療薬を引き下げる措置を導入しようとしたら,製薬会社のノバルティスが裁判にするという脅しをかけた。
交渉は秘密だが、リークされた情報がネット上で公開されている。

ADB総会の対抗シンポについての報告
喜多幡)昨日あたりからADB総会について報道され始めているが、日本がアメリカと並んで最大の出資国。10年前の総会では、京都でフォーラムを開いた。ADBが出資しているプロジェクトの大半は、環境破壊とか住民立ち退きなどをもたらしているので、総会のたびに抗議行動がおこなわれてきた。今回も、アジア各国からNGOメンバーが集まってきた。市民向けのシンポを開催。4日には、横浜市内でデモ。非常に小規模だったが、アジアと日本の意識のギャップの反映。インドでは1日から7日にかけて、100の都市で行動。マニラでは4月にシンポ、700人でデモ。バングラディシュでも行動。
春日)4日のデモは30人くらいで、うち20人は外国からの参加。横浜の人の目は引いたかな、という程度だったが。


Q)グローバル化はガンジーの思想を相反するように思うが,インドの人はどう考えているか?
A)ガンジーの考え方とは正反対。ガンジーの思想は、村を中心にした非中心化をベースにしていた。グローバル化は、村そのものを破壊しようとしている。

Q)カースト制度とグローバル化について?
A)カースト制度は,グローバル化のもとでさらに悪くなってきていると思う。スードラ、ダリットが一番大きな影響を受けている。スードラは多くの場合土地を持っていなくて,肉体労働に依存しているから。契約労働が持ち込まれているが、スードラの伝統的な手工業が失われていく。モディ政権はその流れを加速化。「新自由主義プラス牛」という政策を持ち込んでいる。牛に関連する産業を全てなくす、牛からとれたものを全て禁止する、という政策。

Q)インドにおけるマイクロクレジットの影響は?
A)小規模な自助グループによるものは従来からあった。低金利で回していた。この15年間で状況は変わった。大手の銀行が算入し,海外の投資家から金を借りて、農民に貸し付けている。非常に高い利子(4〜5割)をとっている。ADBも、アクセス銀行に小規模金融の資金として2億ドル融資をしている。イエス銀行にも2億ドル融資、農村の貧しい女性や手工業者への融資ということで。アムステルダムにある、クレジットアクセスアジアに3億ユーロの融資、アジアの全域でマイクロクレジトの事業展開、融資先の99%が女性、24%の金利で貸付。貧しい人たちがなぜこんな高利の融資を受けるのか、政府系金融は利用しにくい。

Q)緑の革命について、1970年代にはじまって、人々を飢餓から救ったのではないか、プラス面があったのではないか?
A)提唱者のスワミナタン自身が、緑の革命は失敗だったと後に語っている。緑の革命はさまざまな問題を生みだしたと。ポジティブな点は一つだけ。米と小麦が自給できるようになった。品種改良が進んだのは事実だが、農薬・化学肥料の使用によって生産量を増やしたので、生産コストが上がり,農民の窮乏化を招いた。

Q)グローバリゼーションのためにインドが良くなった部分があるのではないか?中産階級の層が厚くなっている、アメリカを追い越す勢いがあると言われているが、その点はどうか?
A)中産階級は多くても5,6%。80%以上の人々はグローバル化で損害を受けている。特にダリットの貧困の深刻化。政府の統計によっても67%の人々が食糧の補助金を必要としている事実。

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