パレスチナ問題連続学習会第1回の講演要旨

少し遅くなりましたが、9月29日の第1回学習会での役重さんの講演と質疑(要旨)を掲載します。ATTAC関西でまとめた文章を講師の役重さんにチェックしていただいたものです。



パレスチナ問題学習会「米国大使館エルサレム移転と帰還大行進の歴史的意味」
役重善洋さん(パレスチナの平和を考える会)

メディアの報道ではパレスチナをめぐる事態がどうなっているのか、よくわからない状況だ。それを理解するには、歴史を遡る必要がある。イスラエルとパレスチナという二つの勢力の間の民族紛争、あるいは宗教紛争といった見方が支配的だが、それでは、なぜアメリカが、とりわけトランプが、イスラエルを支援するのかがわからない。エルサレムをイスラエルの首都と宣言したのは、選挙に向けて、福音派の支持を取り付けたいからというのは、きわめて表面的な説明に過ぎない。

パレスチナ問題の根っ子には植民地主義の問題がある。ヨーロッパの帝国主義、とりわけイギリス帝国主義が大元にあり、ヨーロッパの被差別民であったユダヤ人をパレスチナに入植させた。その結果、先住民であるパレスチナ人と対立するようになった。単なる地域紛争としてみるだけでは、本質の一部しか見えない。ここでは、「ジェンタイル・シオニズム」がキーとなる概念である。

歴史的にエルサレムに対して政治的こだわりを一貫して持っていたのは、ヨーロッパのクリスチャンだった。イスラム教徒に占領されていた聖地をキリスト教徒が取り返すというのが十字軍の大義名分だった。しかし、イスラム教徒からすれば、宗教的中心はあくまでメッカだ。イスラム世界がヨーロッパを圧倒していた時期には、エルサレムはイスラム世界では辺境の一つにすぎず、十字軍との闘いは地域的争いという認識にとどまっていたし、そもそも、イスラム統治下のエルサレムには多くのクリスチャンがムスリムとともに共生していた。

西暦七〇年の反乱の鎮圧後、ユダヤ人の支配層は、ローマ帝国によってエルサレムから追放された。その際、第二神殿がローマ帝国に破壊された。その後のユダヤ教徒にとってのエルサレムは、ユダヤ教が政治的な中心をもたないかたちでヨーロッパ等で発展していく中、地理的意味における重要性を失い、より象徴的意味を持つようになっていった。いつかエルサレムに戻るという観念はユダヤ教の中に残ったが、神殿の再建は神にしかできないとされ、戻れるのははるか未来のことだと考えられた。地理的・政治的な意味においてエルサレムはユダヤ教徒の日常生活とは縁もゆかりもないものへと変わってしまう。つまり、エルサレムに一貫してこだわり続けてきたのは、ヨーロッパのクリスチャンだけだった。

宗教改革の時期になると、ヨーロッパの中では、宗派別に主権国家ができていく。そのプロセスの中で、ユダヤ教徒の扱いをどうするか、という問題があらためて出てくる。スペインなどユダヤ教徒を徹底的に追放する国がある一方、フランスなど差別扱いしながら受け入れる国もでてくる。

この点については、イギリスでもかなりの議論があった。ユダヤ教徒をどうするのか? 最終的には、パレスチナに帰還させるべき存在であるという考えをする神学者が出てきた。この議論には二つのポイントがある。第一は、ヨーロッパはユダヤ教徒がいるべき場所ではないという反ユダヤ主義であり、第二には、オスマン帝国がエルサレムを占領しているので、ユダヤ教徒にエルサレムを奪回させ、その後にプロテスタントに改宗させて、結果としてヨーロッパがエルサレムをプロテスタント世界の中に取り込むというシナリオである。ヨーロッパはオスマン帝国に対抗できる力を持っていなかったので、ユダヤ教徒に身代わりとして取り返してもらおうという身勝手な考えだ。つまり、シオニズムは、ユダヤ人オリジナルのものではなく、もともと彼らを追い出したかったヨーロッパのクリスチャンが考えだしたものである。

ヨーロッパには、プレスター・ジョンの王国伝説、つまりアジアのどこかにキリスト教の王国があって、十字軍に参加してエルサレムを取り戻してくれるという伝説があった。その一方で、根強い反ユダヤ主義が一般民衆のあいだに広がっていた。バスコ・ダ・ガマの航海の目的の一つは、この王国を探しにいくことだったが、そんな都合の良い王国がないことがわかってくれるに従って、内なる他者であるユダヤ教徒にその役割を期待するようになる。

アジアへと通じる新たな航路の開拓によって、従来イスラムが享受していたアジア貿易の国際交易における比重が落ちていくのと並行して、オスマン帝国は衰退していった。十九世紀になると、オスマン帝国の瓦解が期待できる状況になってくる。そうする中で、キリスト教シオニズムがより現実的な意味を持つようになってくる。

当時、エルサレムをめぐっては、フランスとロシアの介入によるキリスト教各派間の宗教紛争が起きる。オスマン帝国は、ヨーロッパが背景にある宗教紛争を抑圧するために、現状維持政策=ステータスクォーをとった。

有力なキリスト教宗派とのつながりをもたないプロテスタント国のイギリスは、自分たちはユダヤ教徒の支援者だと名乗ることで、エルサレムへの権利を主張し始める。イギリスは、ヨーロッパ諸国の中で、初めてエルサレムに領事館を開設した。聖地にいるユダヤ教徒をプロテスタントに改宗させることで、聖地をキリスト教化するというキリスト教シオニズムの考えがこの動きを促進した。

バルフォア宣言(1917年)で、イギリスはユダヤ教徒の中に生まれて間もないシオニズム運動を支持した。また、戦争の長期化に伴い、戦意高揚を強調するために、エルサレムを持ち出した。エルサレム占領(1917.12.11)もプロパガンダの対象だった。「イギリス国民へのクリスマスプレゼントである」(ロイド・ジョージ首相)と言う一方で、トルコとの争いをキリスト教とイスラムの争いだと報道することを抑制するという矛盾を抱えることになった。

第一次大戦後、パレスチナを統治するのはイギリス(委任統治)となった。そのため、ユダヤ人のシオニズム運動は、いかにイギリスのシオニズム支持を確保するかに腐心するようになる。

イスラエル国家の成立(1948年)で、パレスチナの支配者はイスラエルになり、これまでのジェンタイル・シオニズムとユダヤ人シオニズムの位置関係は逆転する。しかし、イスラエルの支配層にとって、キリスト教世界の中で支持をつないでいくという課題が生命線であることに変わりはない。その目的のために、キリスト教世界の中で起こったホロコースト問題の政治的重要性を、最大限に政治的に利用した。ホロコーストの償いとして、イスラエルを支持すべきだと主張し始めた。

イスラエルはトランプ政権と強いつながりを持っている。トランプ政権には、かつてのスティーブ・バノンのように排外主義的で、根底には反ユダヤ主義を持っていると思われる人々がいるが、イスラエルはそれを問題としない。

パレスチナ問題の現状を理解するためには、イギリスの委任統治時代が重要である。バルフォア宣言では、「英国政府は、ユダヤ人がパレスチナの地に国民的郷土を樹立することに好意をもって見ることとし、その目的の達成のために最大限の努力を払うものとする.ただし、これは、パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利、及び他の諸国に住むユダヤ人が享受している諸権利と政治的地位を、害するものではないことが明白に了解されるものとする」とされた。宣言の後半にある「パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利、及び他の諸国に住むユダヤ人が享受している諸権利と政治的地位を、害するものではない」と書かれているのは、この時期に民族自決権が重要であることが戦後処理の問題としてはっきりとしてきたことがある。シオニズムを国際的に承認させるためには、これを入れる必要があった。先住民であるパレスチナ人が居住する地域に、ヨーロッパのユダヤ教徒を移民させるのだから、パレスチナ人自決権を侵害しているのだが、無理を承知で移民させた。バルフォア宣言に最も強く反対したのは、イギリス在住のユダヤ人のエスタブリッシュメントだった。ユダヤ人の最大組織も反対の姿勢だった。したがってパレスチナ大衆の権利と海外在住のユダヤ人の権利を侵害しないことを入れざるをえなかった。

1930年代には、先住民と入植者の土地をめぐる争いが激化した。1947年、パレスチナ分割決議にも、先住民の権利を尊重することは組み込まれていた。バルフォア宣言の内容が分割決議にも盛り込まれたのである。この決議は、国際管理地区エルサレムを含めたパレスチナの三分割という内容だったが、「ユダヤ国家」および「アラブ国家」が独立するためには、決議に定められた項目、すなわち聖地・宗教施設の現状維持や、人種・宗教等による差別禁止などの原則を宣言し、さらに憲法を制定して、その内容を憲法に盛り込むことが決められていた。

しかし、すぐに戦争状態に入り、シオニスト民兵による民族浄化が進行した。1948年5月、イスラエルは独立宣言を出したが、この中にも決議に書かれていた最小限の内容を盛り込んだ。国際的正統性を確保するため、欧米列強が納得できるようにするためにイスラエルは必死だった。そのため、バルフォア宣言にあった矛盾はそのまま受け継がれた。イスラエルは憲法を持っていない。分割決議で求められた条件を憲法に網羅しなければならないため、憲法を持たないという方向をとった。

2018年7月、ユダヤ人国家法が制定された。公式言語からアラブ語を削除した。これは、パレスチナ人の権利を剥奪し続けてきた既成事実の積み上げを背景にして、いままで国際社会との形式上の約束とされてきた「先住民の権利の尊重」という文言にもう拘らなくてもいいだろうという意思を表明したものと解釈できる。

トランプ政権が持っている中東に対するビジョンは、イスラエルがお膳立てしたものをそのまま受け入れているだけと見るべきである。「世紀の取引き」の内容は公表されていないが、リークされたものには次の5項目がある。

(1)イスラエルが占領している西岸のC地区をイスラエルに併合し、パレスチナ自治区(150以上の飛び地になっている)とされるA地区・B地区をヨルダンとつなげて、ヨルダン・パレスチナ連合国家にして、ヨルダンに面倒を見させる。
(2)ガザ地区は狭すぎて、現状の封鎖が続けば、到底立ち行かない地域である。常に人道的危機状態にある地域がすぐ隣にあるのは、イスラエルにとっても負担である。そこで、シナイ半島のかなりの部分をエジプトから委譲させて、ガザを地理的に拡大し、さらに湾岸諸国に金を出させて、工業地帯を作ることで、ガザ問題の解決を図る。
(3)難民問題の最終解決のために、UNRWAに圧力をかける。イスラエルにとっては難民問題は存在しないという立場である。
(4)エルサレムは、分割決議では国際管理地になっていたが、第一次中東戦争によるイスラエルとヨルダンによる占領によってすでに破綻していた。イスラエルは、エルサレムをイスラエルの首都と主張し、第三次中東戦争以降は「永遠の統一された首都」であると宣言したが、イスラエルを除くほとんどすべての国がこれに反対した。国連の中では、パレスチナに有利な決議が採択されるようになった。その中で、イスラエルは、反イスラエル的にみえる国際システムをいかに変えていくかに腐心してきた。トランプ政権の誕生で、そのチャンスが現れたといえる
(5)アラブ諸国からイスラエル国家の承認を得る。すでにサウジアラビア、UAE、カタールなどは事実上イスラエルの存在を認めるに等しい態度をとっている。

帰還大行進については、昨年秋からそのアイデアが出てきていた。「世紀の取引き」にどうやって対抗していくかという議論が、若い世代の活動家を中心に進められた。イスラエルはハマスがやっていると印象づけようとしているが、実際には超党派のとりくみである。当初は、西岸地区、イスラエル国内のパレスチナ人社会、パレスチナ/イスラエルの外のパレスチナ人社会にも広がっていくという展望を持っていた。しかし、想定していたような拡がりには結びついていない。西岸地区では、小規模なガザ連帯デモがあちこちで行われているものの、パレスチナ自治政府による厳しい弾圧を受けている、100人以上の指導者が逮捕・予防拘禁されている。自治政府にとっては、頭越しにガザとの民衆レベルの連帯が進むことは、自らの存在意義を否定されるに等しいと考えられている。ヨルダンでも、警察にデモ中止が命じられる状況にある。

横浜で、8月29、30日、イスラエル企業主催の軍事エキスポ=展示会が開催された。セキュリティ製品の展示会に対して、大きな抗議行動が取り組まれた。この展示会では、ソフトバンクが大きな存在感を放っていた。ソフトバンクは最近、イスラエルのセキュリティ企業の買収、共同開発を進めていた。しかし、直前になって参加を取りやめた。

ソフトバンクは、トランプ政権に接近するとともに、サウジアラビアにも接近している。サウジ政府と共同で、巨大ファンドを立ち上げ、今年になって太陽光発電プロジェクトをで合意した。ネオムという新しい都市を作り、そのエネルギー供給のために太陽光発電を使おうとしている。これをヨルダン・エジプトともつなげる構想があり、拡大ガザ構想とも連動してくる。広域鉄道ネットワークという計画もあり、イスラエル、ヨルダン、サウジをつなぐ鉄道も計画されている。西岸を通過するテルアビブ・エルサレム鉄道にも接続することにもなる。このようにイスラエル・アラブ共同プロジェクトが進んでいくことで、占領地という問題意識そのものがなくなってくる。

イスラエルが考えている中東の地図の書き換えが行われようとしている、巨大な資本・技術によって、パレスチナ問題を無化していく。しかし、イスラエルはびた一文出さない。

質疑

問)分割決議案で、人口比で分割されなかったのはなぜか?

面積比では、56%がユダヤ人国家、43%がアラブ人国家。ユダヤ人国家と当初想定された地域では、ユダヤ人は55%であり、アラブ人国家は99%アラブ人。それぞれの地域は、2箇所で分断されているが自由な通行を保障していた。ユダヤ人国家の過半数がユダヤ人でないとまずいし、あまりにも少ない領域だと国家として成立しない。この条件を最大限満たすようにしたのが分割決議だった。それにこだわったのは、民族自決権という認識があったからであり、地域のマジョリティの意見を反映しなければならないという建前があった。

問)ジェンタイル・シオニズムの意味は?

ジェンタイルとは、非ユダヤ人を意味する。聖書にも出てくる。ユダヤ人にとって外国人、異邦人を意味する言葉だ。ユダヤ教の聖書をもとにキリスト教が生まれたため、キリスト教世界にもこの概念が持ち込まれ、ユダヤ人とジェンタイルから世界が成り立つという考えが日常生活の中にも入り込むようになった。ユダヤ人を殊更に強調することになり、反ユダヤ主義につながる概念となった。

問)ノーマライゼーションの意味は?

イスラエルが建国されたときに、アラブ諸国は一切容認しなかった。存在しないものと扱われてきた。しかし、1979年のエジプトとの和平条約などで、アラブ諸国の政治的連携がだんだん崩れていく。オスロ合意後には、ヨルダンがイスラエルと和平条約を結び、イスラエルの存在を承認した。それ以外にも、アラブの中で事実上認めている国が増えてきた。これをノーマライゼーションという。民衆レベルでは、若い世代の中では、ヨーロッパの影響を受けて、イスラエルとの協力を考える人も出てきているが、多数派にはなっていない。

問)アメリカはどうしてイスラエルの言いなりになるのか?その背景は?

オスロ合意以降、二国家解決が「国際社会」の大前提になったが、イスラエルがそれを望んでいなかったため、うまくいかなかった。既成事実として入植地を開発し、帰還権を認めない。パレスチナ側でも、二国家解決への期待がどんどん薄れていった。二国家解決が可能と考える専門家は年々減っている。不可能と明言する人が増えている。不可能と言う人の中には、パレスチナ人の権利を擁護し、かつてPLOが考えていた一国家解決を求める立場(南アフリカ型の選択肢)とイスラエル極右の立場(西岸の可能な限りの取り込み、従わないパレスチナ人の無力化)の二つがある。トランプ政権になったからというよりは、パレスチナ現地の状況、行きづまり状況がこれまでのオスロ合意の論理を続けていくことを不可能にしていることが大きい。ある意味では、状況を反映した合理的発言(トランプ「二国家解決にこだわらない」)である。イスラエルでは、政治的に意味のある左派は消滅している。イスラエルの既成事実の積み重ねが後戻りできないレベルに達したところで、トランプによってたがが外された。これまでは、一定の制限をつけながら、入植地の拡大を黙認する態度を続けてきた。そんな矛盾したやり方は続けないというトランプの意思の現れである。

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