「反対者」への弾圧と威嚇ー「黄色いベスト運動」その6

飛幡祐規さんの「パリの窓から」が更新されました。

飛幡さんのコメントです。「学年末の試験シーズンが近づくパリです。4月にノートルダム大聖堂で大火災が起きて衝撃を与え(これについては別の機会に)、5月末には欧州議会議員選挙がEU28か国で行われましたが(これも別のコラムで)、6か月以上続く「黄色いベスト」運動と政権の対応、その後の状況です。」

元の記事と写真はこちらから
http://www.labornetjp.org/news/2019/0602pari

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「反対者」への弾圧と威嚇ー「黄色いベスト運動」その6

「黄色いベスト」の毎土曜日のデモが繰り返されるフランスでは、民衆運動への弾圧は環境活動家、労働組合員、ジャーナリスト、一般人へとさらに広く及ぶようになった。この国に住んでまもなく45年になるが、政府や警察による市民の権利の蹂躙がここまで数多く、多岐にわたって露骨に行われたことはこれまでなかった。代表民主制の疲弊現象はフランスでも近年顕著になり、民衆の声が反映されない不満と怒りが「黄色いベスト」運動の原動力にもなっているが、それを封じるためにフランスの政権がいともたやすく民主国家の原則を踏みにじっている現在の状況に、めまいを感じる。その中、5月26日に欧州議会議員選挙が行われ、前回の2014年に続いて極右(国民連合RN)が第1党、マクロン大統領の「共和国前進」LREMは次点だった。選挙結果の分析は次のコラムに回すことにする。

「黄色いベスト」運動は厳しい弾圧にもかかわらず、6月1日で第29行動を迎えた。6か月以上、回数に入っていないが5月1日のメーデーも含めて、毎土曜のデモが繰り返される。前回紹介したダヴィッド・デュフレンヌの治安部隊の違法行為や暴力の記録・集計は、5月31日現在で合計802件(死亡1、頭部重傷293、失明24、手の喪失5)に増加した。そのうちデモ参加者が590件、ジャーナリストが109件、救急部隊(ストリート・メディク)32件である。

デモを取材するカメラマンなど(フリーランスが多いが、主要メディアのジャーナリストも含む)の負傷、撮影の妨害・威嚇、機材の破壊などが100件以上もあるとは、「民主国家」としては明らかに異常な状況である。さらに、4月20日の第24行動の際、独立メディアを立ち上げた若いジャーナリストのガスパール・グランズが「黄色いベスト」デモの取材中に逮捕され、48時間近く警察署に拘留された。裁判所は「治安を委託された者(警察官)への侮辱」という罪状で、5月1日〜10月中旬のパリへの滞在を禁止し(彼はパリ在住)、彼がデモなど社会運動を取材する自由を蹂躙した。早速、24のメディアのジャーナリスト協会や個人が「報道の自由と労働の自由を侵す」と批判してグランズを擁護したため、この禁止は引き下げられた。彼が警官を侮辱する行為(指で愚弄する仕草)をしたのは、理由もなく催涙手榴弾を投げられたからだ。その行為自体に非があっても逮捕・拘留は要しないし、この事件はとりわけ、治安部隊が現場の撮影を妨害するために、カメラマンやジャーナリストを狙ってゴム弾銃LBD40や催涙手榴弾を使う事実を示している。数ヶ月もそんな状況が続いているのに、不当拘留と明らかな職務妨害を意図した司法命令が下されるに至って、さすがに鈍い報道界も反応したのだろう。しかし、政府の見解を垂れ流し、治安部隊の暴力に沈黙し続けた主要メディアに対して、負傷も厭わず報道し続けるのは主に独立ネットメディアか経済的に不安定なフリーランスたちであり、彼ら、彼女らこそが今この国で体をはってジャーナリストの倫理を貫き、報道の自由を守っている。

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5月1日のメーデーの際には、さらにスキャンダルな事態が起きた。内務省は事前から全国と外国からも多数のブラック・ブロック(破壊分子)がパリに集結すると発表し、一般市民のデモ参加を思いとどまらせようとした。当日はデモ出発前からすでに多数の催涙手榴弾が使われ、最初から前年(警官に変装した大統領の側近ベナラが市民に暴力をふるったメーデー)以上に緊張が高まった。終着点広場に向かう大通りでは大がかりなケトリング(参加者を一定の地区に閉じ込める)が行われ、閉じ込められた労働組合員や一般参加者に向かって多数の催涙手榴弾などが使われた(筆者は危険を感じてその前に抜けた)。一部の参加者が催涙ガスから逃れるために、ピチエ・サルペトリエール病院の敷地内に逃げ込んだのを、バイク部隊が追いかけた。追い詰められた人々は、建物の階段を上がって逃げこもうとしたが、そこは集中治療病棟だったので入れてもらえず、逮捕された。内務大臣はその夜、「病院が襲撃された、看護スタッフが襲撃され、警官が負傷した(三つの嘘)」と発表し、病院長もその説を述べた。「病院襲撃」ニュースを国営・民営主要メディアは直ちに流布した。ところがその晩のうちに、平和的なデモ参加者たちが追い詰められた状況を外から撮ったビデオや、集中治療病棟裏口の内側から病院の従業員が撮った映像が流れ、恐怖に駆られて中に入れてほしいと頼む人々を病院側が説得して中に入れなかったことが明らかになった。医師、看護師、看護士たちも事情を証言したため、病院のトップと政府が「病院襲撃」を演出したのだろうとわかった。

カスタネール内務大臣に対して国会での聴聞と辞任を求める声が上がったが、大臣は「言葉の使い方が悪かった」ことを認めただけだ。一方、逮捕された34人の市民は警察の拘留中に(「黄色いベスト」デモの他の逮捕者と同様に)侮辱的な言葉や脅迫、ろくに水や食事、寝台のマットレスを与えられないなどひどい扱いを受け、30時間後にようやく釈放された。しかし、34人に(謂れのない)罪状で予備審問が開始された。34人は不当な扱いを受けたとグループを作り、共同で記者会見を開いた。

デモは憲法で保障された権利であり、祝日のメーデーは労働者や市民が路上で意思表示をする祭典だった。彼らは平和的にデモに参加したのに、不当逮捕・拘留されて侮辱され、いまだ罪人の疑いを受けているのである。弁護士と共にこれから闘うわけだが、不当逮捕・拘留によって受けたトラウマは大きい。中には、翌日から新たな仕事に就くはずだったのに、欠席の連絡さえできなかった人もいる。これまでも、郊外の若者たちや環境問題など活動家に対して、警察の不当な権力濫用があったが、この半年でその数は急増した。

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メーデーの日にはもう1件、ショッキングな不当逮捕が起きた。平和的にデモに参加しようとしたスペイン女性が逮捕され、妊娠中にもかかわらず拘留された。妊娠中なので身体を守るために持っていた「平和の盾」(写真参照、「私は平和的なユートピア主義者。これは私を守るためで、攻撃しません」と書いてある)を、警官は武器とみなしたのだ。警察署で罪状は取り下げられたが、彼女は解放されずに「移住者収容所」(非合法滞在の外国人や難民向け)に拘置された。パリ警視庁が国外強制退去を求めたのだ。このスペイン女性は2002年からフランスに滞在し、無期限契約(正式雇用)の職を持ち、フランス人の連れ合い(お腹の子の父親)と同居している。平和的にデモに参加しただけで、一度も罪を犯したことがないEU市民を国外追放しようとは、常軌を逸した措置である。弁護士は「退去強制は、EUの人権と基本的自由の保護のための条約に反する違法措置」だと指摘する。

これら治安部隊の暴力や不当な措置についての調査は、いっこうに進まない。コラム52で言及した不当な逮捕・拘留、とりわけ侮辱的な扱い(跪かせ、頭の後ろで両手を組ませた)を受けた高校生151人の弁護団は、5月6日に再度告訴を行った。12月初頭の事件なのに正式な司法訴訟が始まらず(予審判事が任命されない)、調査が進まないからだ。行政調査(警察内部)では5月16日、「警察に常軌を逸した行動はなかった」という結論が出た。人権宣言を発した国として恥ずべきことではないだろうか。

この間、アムネスティー・インターナショナル、欧州や国連の人権機関から治安維持の方法と過度の弾圧を指摘されても、フランス政府は否認して何も変えようとしない。5月22日には、国連の人権理事会の特別報告者がこの件について、フランスの市民やジャーナリストから聞き取り調査を行った(ダヴィッド・デュフレンヌも参加)。しかし、国内外とも治安維持方法への批判が高まったためか、パリの検事正は「不当な暴力を働いた警官は裁かれる」と5月30日の日刊紙へのインタビューで語った。もっとも、治安の責任を取るべきカスタネール内務大臣は、いまだ治安部隊による暴力の事実を認めていない。

報道の自由については、他にも憂慮すべきことが起きている。フランスはサウジアラビアとアラブ首長国連邦に武器を売っているが、ディスクローズDiscloseというジャーナリストや研究者による調査団体が4月15日、その武器がイエーメンでの内戦で市民攻撃に使われている可能性があることを示す防衛機密文書を、彼らのサイトで公開した。フランスも批准した国際間の武器貿易条約では、市民攻撃など戦争犯罪の可能性がある国への武器の輸出を禁止している。2015年から続くイエーメン内戦では、サウジアラビア主導スンニ派連合軍によるフーシ派攻撃で大量の市民が殺されている(アムネスティー・インターナショナルなどが告発)。にもかかわらずフランスは、サウジアラビアへの武器輸出を近年増大した。機密文書には、フランス製の戦車が市民居住区の攻撃に使われていることが地図などで示されていた。国会で、サウジアラビアとアラブ首長国連邦への武器輸出についての調査委員会の設置を求めても政府が受け入れない中で、ディスクローズは市民の知る権利のため(公益)、また国会が政府の行動を監視する民主制度を守るため、公開を禁止されている機密文書を公表した。

ところが5月になって、ディスクローズと国営ラジオ放送のジャーナリスト4人がDGSI国内治安総局(内務省直下の情報機関)の聴取を受けた。国防省(マクロン政権では「軍隊省」)が訴えたのだ。そのことが報道されて、サウジアラビアへの武器輸出について調査していた別のジャーナリストが、機密文書公開前の2月に国内治安総局に聴取された(3人)ことを発表した。さらに、ベナラ事件を暴いたル・モンド紙のジャーナリストも5月末、同じ情報機関から聴取された(特別部隊にいた過去を書かれた人物が告訴したため)。これらはすべて、ジャーナリストの情報源を探る(取材源の秘匿は報道関係者の倫理だから、普通は答えない)ための圧力であり、同時に内部告発をした人たちを威嚇し、報道界を萎縮させる目的の行為である。国内治安総局は2月〜5月に8人のジャーナリストを聴取した。機密文書(とりわけ防衛とテロリズムの分野)をもとに記事が書かれた場合、これまでも稀に(1年に一度あるかないか)ジャーナリストが情報機関の聴取を受けることがあったが、短期間にこれほど多くの人数が呼び出された例はなかった。

そこで5月末、弁護士やジャーナリストの組合などが共同で、パリの検事正に宛てて、このような報道の自由への圧力を止めることを求める書簡を送った(国連の人権高等弁務官や表現の自由についての特別報告者、欧州評議会へもコピーを送った)。ちなみに、この検事正の任命は問題になった。フランスの司法は独立性が低く、検事正など検察は行政(法務大臣など政府)が推薦(選択)するシステムだが、昨年夏前に新たなパリ検事正の選択に当たって、法務省が推薦した3人をマクロンは拒否し、彼が選んだ現検事正が昨年秋に任命された。

「告発者」に対する圧力は重大である。ウィキリークスやパナマ・ペーパーズの例でわかるように、内部告発がなければ公衆が知ることができなかった不正はたくさんある。ルクスリークスで内部告発した(ルクセンブルクがアマゾンやマクドナルドなど、多数の多国籍企業に優遇課税を提供して誘致した)アントワーヌ・デルトゥールは、ルクセンブルクの司法から訴えられて二度有罪になり、破棄院でようやく無罪になった(もう一人は破棄院でも有罪)。このように、国や企業は彼らを訴えてその人生を破壊し、公益(市民の知る権利)に貢献する内部告発者が出ないように圧力をかける。例えば、マクロン政権が登場してすぐの2017年の夏、労働法改正案の内容を報道界に流した労働省の内部告発者を威嚇するために、労働大臣ミュリエル・ペニコーは訴訟を起こした。

報道の自由への圧力に加え、国民議会でも、圧倒的多数の与党に対して既にほとんど力がない野党(唯一、シャルルドゴール空港の民営化だけは、野党議員が超党・合同で国民投票を提起して、法案の採択を遅らせることに成功した)に対して、ますますその権限を弱める「国民議会規則改革」法案が進行中だ。「全体的議論」と呼ばれる法案討議前の自由討論の際、現在は10分ずつ、複数の野党議員に与えられている発言(与党は15分)を1会派につき1人のみ、5分に制限する条項について、5月29日の討論の最中、全野党が反対して議会を退場した。民主主義の基盤である討論の時間を「長すぎて時間の無駄」とみなす、マクロンの党のネオリベラル思考、国を企業経営と混同する民主主義の否定が現れている。マクロンは自分が提案した「大討論」の際には、ワンマンショーのように数時間でもしゃべり続け、「大統領演説」もやたら長くて大臣たちは居眠りをしていたが、複数のさまざまな意見を闘わせる本来の「討論」は拒否するのだ。フランス革命以来、ヴィクトル・ユーゴーやジャン・ジョレスをはじめ数々の歴史に残る名演説が行われ、情熱的な討論が繰り広げられた国民議会は、今や急ピッチで政権の「改革」を進めるための正当化機関になり下がったようだ。

2019年6月1日  飛幡祐規(たかはたゆうき)

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