松尾匡さん講演「7月参議院選挙で見えてきた反緊縮左派の可能性」要旨

ATTAC関西グループの連続学習会の特別企画として、10月6日、松尾匡さんの講演会を開きました。30人を超える方に参加していただき、松尾さんの講演「7月参議院選挙で見えてきた反緊縮左派の可能性」のあと、熱心な質疑がおこなわれました。ここでは、松尾さんの講演と質疑の中での松尾さんの発言を紹介します。

10.6 松尾さん講演要旨

欧米における反緊縮運動はどのように形成されたのか

欧米の反緊縮運動としては、まずニューヨークのウォール街を占拠したオキュパイ運動が盛り上がった。オキュパイ運動は、リーマンショックの際に、公金を使って銀行などの金融機関を救済したにもかかわらず、生活が破壊された人々へは何の施策も講じられなかったことへの怒りが感情的なベースになっていた。この運動に参加した人々がサンダースの大統領選を支えていった。そして、今ではオカシオ・コルテスなどの民主党左派を押し上げている。
スペインの15M運動の中からも、のちのポデモスにつながる活動家が現れた。ポデモスの経済ブレーンになっていく人たちが反緊縮の経済政策の全体像をまとめた。その提案は、『もう一つの道はある』というタイトルで、ATTACの人たちによって日本語にも翻訳されている。
欧州労連の反緊縮行動として、2014年11月14日に南欧5カ国で同時ゼネストがおこなわれた。中央・北欧などを含め、23か国、40ナショナルセンターから数百万人が参加した。欧州労連は、反緊縮的な経済政策を求めてきた。2015年に欧州中央銀行が量的金融緩和を決めたときに、欧州労連は「経済政策における歓迎すべき転換があった」という談話を出した。その上で、教育など社会的に意味のある公共的な投資につなげていかなければならない、EUの経済政策はそれに反していると主張した。
欧州左翼党の出している経済プランは反緊縮であり、欧州中央銀行がお金を作って、政策銀行を通じて、公共的な投資にお金を使うことを主張するもの。
こうした流れの上で、コービンやサンダースの現象がある。労働党のブレア路線=「第三の道」は、新自由主義と変わらない政策だった。福祉についても上から与えるものではなく、働けば福祉を与えるという考えで、雇用の促進を総需要の側からはしないため、苦しんでいる人たちはますます苦境に陥った。
ブレイディみかこさんは、イングランドの底辺保育所で保育士として働いてきた経験を著書『子どもたちの階級闘争』にまとめている。その中で、近年の保守党の緊縮政策で保育所が閉鎖に追い込まれる様子や、労働党政権時代でも積極的に雇用を生み出すわけではなく、失業者が飼い殺しにされていて、精神的にスポイルされていく状況を描いている。
労働党は、労働組合から離れて、中道市民に軸足を移し、労組が冷や飯を食わされる状況が続いた。党中央は不満が溜まってきたことに気がつかず、左の政策を行っても人気を得られないと思っていた。このことへの不満の爆発が、泡沫候補とみられていたコービンが労働党党首に当選した要因だった。
ケン・ローチの映画『1945年の精神』では、「揺り籠から墓場まで」という政策を掲げた労働党が、労働者の圧倒的支持を受けて、終戦後の選挙で勝利した様子を描いている。英語版の付録の中で、その当時の労働党のマニフェストをいまの若者に見せる場面があり、若者が「これこそがわれわれが求めていたこと」と言って驚いた。こういうマニフェストこそが、いまの若者が求めていたものだったのだ。
クリントン、オバマと続いた民主党の路線に不満を持った人々がトランプを支持したが、そんな人々でトランプにはいけない人々がサンダースを支持して、予備戦を闘った。そして、中間選挙で、サンダース派の国会議員を生みだした。
つまり、反緊縮運動は、労働運動をはじめとした闘いに支えられていることに注目すべきである。

反緊縮運動の理論的背景

緊縮政策のもとでは、国にお金がないという口実で、福祉・教育・医療が切り捨てられてきた。若者には職がなく、社会サービスを民間ビジネスが代替していく。民営化によって企業が儲かる、緊縮は一部の企業を儲けさせるためだ、庶民だけが苦しめられるという怒りをもとにして反緊縮運動が起こった。
その反緊縮運動を支える経済理論を整理すると、三つの流れがある。
1)ニュー・ケイジアン左派(ポール・クルーグマン、ジョセフ・スティグリッツ、サイモン・レンルイスなど)〜IMFなどの国際機関を批判
2)MMT(サンダースの経済顧問であるステファニー・ケルトン、「人民の量的緩和」を唱えたリチャード・マフィーなど)
3)信用創造廃止派
反緊縮運動のパッションの部分では、信用創造廃止派の考え方が支えている気がする。信用創造廃止派の考え方とは、以下のようなものである。お金の圧倒的多数は預金通貨であり、決済の多くは預金のやりとりで済ませている。お金を貸すということは、民間銀行が貸付先の預金口座に数字を書き込むことであり、そのことでお金が作られる(=信用創造)。つまり、借金によってお金が作られる。逆に、企業がお金を返すときは預金から数字を消すので、お金が消える。批判的に見る人たちは「お金が民営化されている、私的利益のためにお金が作られている」と批判する。したがって、民間の信用創造を廃止して、政府が社会的に有用なものに投資してお金が作られる仕組みに変えることが必要だと言う。
景気が良くなるとお金がたくさん作られ、景気が過熱していく。景気が悪くなるとお金が作られない、返済しろということでお金が消えていくため、ますます景気が悪くなる。投機のために銀行がお金を貸す=お金を作ると、バブルが膨らむ。この仕組み自体がおかしいのだから、お金を公共目的のために作らなければならない。政府が民意を代表して、公共的な活動のためにお金を使うことを主張している。設備投資を公共目的のためにする、生産手段の私的所有を社会化していこうという志向であり、社会主義的な方向を持っている。グレーバーの『負債論』では、負債は人間の自由を縛るものとして、債務の帳消しを主張している。
どうしてこんなことが問題になってきたのか?私が思うには、リスクの高い設備投資が奨励されるべき時代は確かにあった。リスクが高いものにお金を出すために、民間銀行にやらせていた。銀行が信用創造して、責任は自らが負う。ところが成熟した経済では設備投資が起こって来ない。設備投資のためにお金を借りてくれなければ投機に信用創造されることになる。私的利潤追求に任せていたら、設備投資需要が興らないので、雇用創出ができない。その分政府がお金を借りて(国債発行)銀行の預金通貨を生み出し、あるいは政府自らがお金を作ることで完全雇用を作り出す。反緊縮的経済政策は投資を社会化する社会主義的志向を持っている。決して資本主義を利するものではなく、本質的にラジカルな、資本主義を変えていこうとするものであることを理解していただきたい。
だから政府支出による景気拡大政策は、労働者が完全雇用されたあとの長期的展望とは別の問題である。労働生産性が上がって必要な分野に労働者を回すことができれば、それ自身はいいことだが、それを政策で目指す必要はない。設備投資が興らないという意味では、長期的成長を目指すのではない時代になっていることを受け入れている。

7月参議院選挙の結果をどのように評価するのか

れいわ新選組が作られたのは、私には寝耳に水の話だった。しかし、れいわの経済政策はほぼ100点満点だと思う。いっときのポデモスなどが目指したものと同じだ。やっと日本でもでてきたという思いがある。
2019年に入ってから、経済指数は軒並み悪化し、経済が崩れてきている。消費税増税でマイナス効果が出るのは確実で、6月でポイント還元が終わり、8月にオリンピックが終わると、失業や倒産が増えるだろう。これに対する怒りが溜まる中で総選挙を迎える可能性がある。
そのときに危惧していることがある。参院選で維新から立候補して当選した音喜多駿のブログによれば、「維新は財政規律を大事にしてきたが、国家規模では方向転換している」と(本人は批判する立場から)書いている。また、積極財政への転換を橋下徹に近い維新の足立やすし代議士も主張している。維新は、統一地方選でも、緊縮を後ろに隠して、「大阪の成長をとめるな」と言うスローガンを掲げて勝っている。橋下はもはや国政復帰の野心を隠していないが、国民民主の一部などを抱き込んで橋下新党を作って、大不況の中で、右からばらまき的な政策を打ち出せば大躍進するだろう。れいわと連携して左から反緊縮を打ち出す必要がある。

薔薇マーク運動の到達点とこれから

反緊縮の世論を少しは作り出せたかなと思っている。れいわの躍進にもすこしは役立ったかも、選挙キャンペーンとしての役割は果たしたと思っている。

気候変動と反緊縮
反緊縮運動の中では、気候変動危機は金融危機と同根であるという考え方である。対処の仕方は同じものになる。お金の作り方を私的な利潤に任せるものではない。お金が悪さをするために使われるもとを絶たねばならない。グリーン・ニューディールという考え方があり、オカシオ・コルテスが盛んに提唱しているし、ドイツ緑の党も前面に掲げて選挙で躍進した。気候変動への対応を通じて雇用の創出をめざす経済政策でもある。

MMTと信用創造廃止派の違い

学説的にはだいぶ違う。MMTは民間の創造信用を抑えようとする志向はない。政府の支出を増やそうとする。運動レベルでは違いをあまり気にしていないのではないか。

れいわについて

社民の大椿さんの政策は素晴らしいものだった。薔薇マーク・キャンペーンのアンケートへの答えは満点だった。しかし、最終的には薔薇マークは辞退された。今後不況下の選挙を迎えて、社民党にとって、立民とくっつくのか、れいわと連携するのか、大きな曲がり角にある。
れいわの経済政策以外のことには、私は一切タッチしていないので、ここでコメントするのは控えたい。

ヨーロッパの反緊縮運動は頭打ちとなっているのは事実で、ポデモスの状況はひどくなっている。フェミニズムなどの反差別に重点が移り、反緊縮を言わないようになっている。経済ブレーンも、粛清されたのか、党を去った。コービンのもとでは、ブレアのもとで冷や飯を食っていた古い世代の労働党活動家が復帰していて、女性差別発言、ユダヤ人差別的な発言などがあり、支持者の若い世代が去っている。ドイツ左翼党も、有力者が労働者の雇用のために移民制限を唱え、反差別派との内紛が激しい。

民族差別問題などと労働者階級の経済問題との間で反緊縮左派内部に緊張が起こることは自然なことと見て、備えておく必要がある。マレーシアでは、外国人労働者の利用が進められ、賃金に抑制圧力がかかり、格差や貧困が問題になっている。労働組合の全国組織では、外国人労働者の組織化と境遇改善を通じて、自国労働者の労働条件・雇用を確保していく取り組みをしている。山本太郎はこの話を直接聞いている。

質疑

私はMMTにはどちらかというと批判的だ。しかし学説上の違いが実践での喧嘩にならないようにするべきだ。

緊縮で儲かる人がいて、その人たちが大きな力を持っている。セーフティネットがなければ、資本家の言うことを聞かざるを得ない。緊縮派の理論は資本家については都合がいい。

銀行を公的なものにしていくほうがいい、最終的に国有化していく。その場合、投資の判断をどうするかが大きな問題。リスクの高いものについては失敗を覚悟して民主的な合意の上で投資する、あるいは銀行ではなくて個人が直接に投資するという方法がある。コミュニティ内の協同組合的な相互融資システムはあっていい。

私は、社会運動とのかかわりのなかで反緊縮的な経済政策を考えてきた。れいわが次のステップで、いまのままの組織でいいのか、社会運動に支えられてないといけないと思う。

法人税(MMTは法人税引き上げに反対)は引き上げたらいい。なぜ税金をとるのかというと、国全体の供給能力を購買力が超えるとインフレが起きる、購買力をおさえるために税金を取る。では、どこの購買力を抑えるのか。労働者の雇用がみんな確保されている段階では、労働力人口は増えないので設備も増やせない。設備投資を抑えるために法人税を上げる。景気が悪い時は法人税を上げた上で設備投資補助金を出すと、設備投資が促進される。社会的に有用な設備投資へと誘導する手段にもなる。投資の社会化を促す。

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