第4回ウェビナー「パンデミック後の世界」〜「戦争と冷戦-軍事化とパンデミック」

ウェビナー「What world after the pandemic (パンデミック後の世界)」
第4回(5月21日、午後10-11時30分[日本時間])
「戦争と冷戦 – 軍事化とパンデミック」

発言:
スクマール・ムラリドハラン(Sukumar Muralidharan、男性) 、ニューデリー在住のジャーナリスト、メディア・戦争・核の脅威をテーマに活動)
クリー・ピーターセン・スミス(Khury Petersen-Smith、男性)、米国シカゴ在住、Institute for Policy Studies(政策研究所)、黒人運動の中でパレスチナなど国際連帯の活動)
タビタ・チョウ(Tobita Chow、男性)、米国在住、「Justice is Global」の代表、米中対立の激化の中で進歩的な国際主義的オルタナティブを探求している
司会 :
フィリス・ベニス(Phyllis Bennis、女性)、 インタープレス・サービス(IPS)「新しい国際主義」プロジェクト代表、トランスナショナル・インスティテュート(TNI)の研究員。

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フィリス・ベニスさん(PB)

今日は「戦争と冷戦 – 軍事化とパンデミック」というテーマです。パンデミックは世界のあらゆること、生活や経済、外交、政治などあらゆることを一新してしまいましたが、ただ1つ変わらないことは軍事化です。米国はグローバルな「テロとの戦争」を続けています。1940年代から1980年代までの冷戦が終わった後、2001年以降は20年にわたって「テロとの戦争」が続いています。その間に各国で軍事化が進み、いくつかの国ではファシストのような政治勢力が台頭してきました。パンデミックの中でも、この動きは変わっていません。パンデミック下でも世界各地で戦争が続いているだけでなく、新しい戦争の危険も見られます。

40年間にわたる冷戦は世界の形を規定してきました。冷戦が各国の外交の形や、対立する陣営と対抗するために福祉を充実させる等の政策を規定しました。左派や社会運動も、冷戦の中でそれぞれの戦略を考えてきました。20年にわたる「テロとの戦争」も世界の形を規定してきました。米国は一貫して軍備やサーベイランス(監視)を増強し、また、資源をめぐる戦争は気候危機を加速してきました。難民危機やレイシズム、排外主義が拡大しています。
 
その中で、米国にとっての軍事的脅威は変化してきました。また、世界各地の国境地域の軍事化、国際的な機関や法律の無力化が進み、軍事費の増大によって国家予算が圧迫されてきました。パンデミックですべてが変化したと言われますが、軍事化だけは変わっていないのです。その中で米国では多数の貧困層が食料や医療にも事欠き、周辺化され、見えない存在とされています。パンデミックの最中にインドやバングラデシュではサイクロンの接近が伝えられています。それに米国と中国による新たな冷戦が語られています。

パンデミック後の世界に向けた戦略を議論する上で、戦争と軍事化を止めることをその重要なベースとして組み込む必要があります。そういう観点から3人の方に、まずグローバルな軍事化の概況について話していただきます。

スクマール・ムラリドハラン(SM)
 
全世界で感染の危機が広がっている時でも、彼らは戦争と軍事化を止めようとしていません。ベネズエラの政権転覆のための圧力を強めています。一部の国は国連によるパンデミック中のすべての戦争の休戦という呼びかけも応じようとしていません。国連安保理でもパンデミックへの対応をめぐる決議が、WHOへの言及をめぐって米国が反対したために実現しませんでした。シリア、リビアなどで戦闘が続いています。それぞれの勢力はパンデミックを有利に活用しようとしています。世界で多くの政府が信頼を失っており、昨年後半から南米のいくつかの国や、レバノン、イラクで街頭デモが広がっていましたが、パンデミックの中で抑え込まれています。イスラエルはヨルダン川西岸の併合を既成事実化する動きを強めています。インドは独立時に合意したカシミールの自治を廃止する動きを進めています。

パンデミックは国内経済にも大きな影響を及ぼしています。米国では失業給付の新規申請が数百万件に跳ね上がりました。インドでは人口の80%が生計手段を失い、人々の大規模な移動が起こっています。・・・このような状況の中で、不満をどこか外部へ向けていく動きが広がっています。米国ではトランプが中国を敵視する言動を繰り返しています。貿易赤字は中国が米国の労働者を搾取しているためだ、と言っていますが、実際には米国の危機はこの数十年の政策の結果です。・・・米国の一極支配から多極化へと世界は動いています。これが軍事化の背景にあると思います。

クリー・ピーターセン・スミス(KP)

各国政府はパンデミックを利用していろんな動きを進めていますが、その多くはパンデミックの前から起こっていたことです。国境を囲い、軍事化し、難民を追い出す動きもその1つです。この危機の中で、国連難民高等弁務官事務所によると現在、全世界で7100万人が住んでいた土地を追われています。このうち4100万人が国内難民です。難民の多くは戦争や。気候変動に伴う環境破壊、経済的困窮によって移動を余儀なくされており、すべての国の政府がその責任の一端を負っています。気候変動による影響は加速しています。

米国は移住者や難民は「テロリスト」であるというイデオロギーに基づいて難民を追い返し、国境を要塞化しています。

国境での壁の建設については歴史的にもいくつかの例があります。イスラエルが典型的です。イスラエルは2002年にヨルダン川西岸地区とエルサレムで分離壁の建設を始めました。彼らは国家の安全のためという大義名分と、民族の純粋化(民族浄化)のために、壁を建設し続けなければならなくなっています。ユダヤ人のための単一民族国家という観点からはパレスチナ人は「テロリスト」であり脅威であるからです。このような「国家の安全」と「民族の純粋化」という考え方の結合が、他の国においても起こっています。米国もそうです。イスラエルによる分離壁の建設は当初は国連でも非難され、英国政府を含めて多くの政府が非難していました。国際司法裁判所でも国際法違反とされています。しかしイスラエルは壁の建設を続け、正当化しようとしてきました。その後、ヨーロッパでもハンガリー、マケドニアなどで難民の排除のために壁が建設されるようになり、それぞれの政府は同じようにそれを正当化しようとしています。米国ではトランプ政権がメキシコ国境での壁の建設を看板政策として掲げてきましたが、実際にはオバマ政権の後半に、中東地域における壁の建設のための予算を計上していました。シリアやイラクの難民の最大の受け入れ国となっているヨルダンやリビアからの難民が流入するエジプトなどの国にです。米国はまた、米国への難民流入を阻止するための中米諸国間の国境にも壁を建設しようとしています。米国、メキシコとこれらの諸国の間で難民の移動を阻止するための提携が強化されています。

難民の危機は「永続的な危機」と考えるべきだと思います。最近「ニューヨークタイムズ」紙にシリアのイドリブ[北西部国境]の状況についての記事がありました。この地域はシリアの各地から逃げてきた人たちが集まっていますが、この記事ではこの人たちのことを「終わりのない難民」と表現しています。まさにその通りだと思います。そして世界の多くの難民は、同じように「終わりのない難民」です。国際的な枠組みの中でどこにも解決策がありません。たとえばロヒンギャがそうです。つまり、国家は壁を作って難民を排除する一方で、何の解決策も示していないのです。もう一度イスラエルの問題に戻りますが、イスラエルは一貫してパレスチナの人々を追放し、そのような状態に置き続けてきたのですが、そのやり方今ではさまざまな地域に広がっているということです。
 不幸なことに今では米国、イスラエルはこの動きを加速しており、それが他の地域でも広がっているので、このままではこれから先、非常に絶望的な状況になります。パンデミックの中で各国は国境を閉じていますが、それが再び開かれるのか、永続化されるのかという問題は、私たち、社会運動が取り上げるべき問題です。

PB

タビタさんには軍事化のもう一つの問題、国家間の軍事的緊張について話していただきます。これまでは米国にとって国家間の軍事的緊張は主にイラクや北朝鮮その関係でしたが、今では中国がメインの相手となっています。「新冷戦」と言われていることの背景、冷戦から全面的な軍事的衝突・戦争へ進む可能性、それは小型核兵器を含む複合的戦争になるかもしれませんが、世界が気候変動や現在のパンデミックのような危機にある時に、そのような世界の分裂は非常に危険な結果をもたらすでしょう。タビタさんの「Justice is Global」は、まさにこの米中新冷戦の問題と、その中で深刻化している反中国・反アジア人のレイシズムと暴力の問題に取り組んでいます。

タビタ・チョウ(TC)
 
はじめに「ブルームバーグ・オピニオン」に5月6日付で掲載されたハル・ブランズ(Hal Brands)のコラム「Can a Broke America Fight a Cold War With China?(経済破綻したアメリカは中国との冷戦に勝てるのか)」に触れておきたい。
[ https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2020-05-05/coronavirus-can-a-broke-u-s-fight-a-cold-war-with-china ]

この筆者はジョン・ホプキンス大学の教授で、ネオコン系のシンクタンクの研究員でもある。彼は、「アメリカがパンデミックによって経済が停止し、ペンタゴンの予算が今後数年にわたって制約されるこの時に、国内ではイデオロギーの対立を超えて中国敵視が広がっている」と述べています。この間、米中の経済、政治、外交における競争が激化し、オバマ政権も中国との対抗に戦略の重点を移してきました。トランプ政権になってから、反中国のナショナリズムが強まり、あらゆるレベルで冷戦の様相が強まってきました。そしてパンデミックをきっかけに、トランプ政権だけでなく民主党の大統領候補も含めて、そして軍事エリートの間で、中国との冷戦がはじまるのかどうかという議論ではなく、中国の冷戦は始まるという共通認識の下で、それがいつどのように始まり、それにどのように勝利できるのかが主要な議論になってきました。
 
中国と米国の対立は単に軍事的対立ではなく経済戦争、ハイテク戦争、外交、資源などあらゆる面にわたっています。この間、EUを離脱した英国が米国との関係を一層深める一方で中国がEUに接近するなど、両国は多くの国にどちらの側につくのかという選択を迫っています。サイバー戦争の危険も指摘されています。中国と米国の軍事的衝突は非常に大きなリスクをもたらします。同時に経済紛争も大きなリスクをもたらしています。東南アジアやアフリカ、南米で両国が競合しています。すべての緊張がリスクを高めます。その中で米国で反中国のナショナリズムが台頭し、中国でも反米ナショナリズムが台頭しているのは非常に危険なことです。米国における中国バッシングが中国国内での中国ナショナリズムに利用されています。

PB

それでは、それぞれの報告に関連して、私からいくつかの質問をします。スクマールさんには、軍事化についてアフリカの状況についてお聞きします。コンゴの内戦が「アフリカにおける世界大戦」と言われており、数カ国が介入し、数百万人が難民となっています。これは資源をめぐる戦争ですが、ほとんど忘れられた戦争になっています。この戦争にパンデミックはどういう影響を及ぼすでしょうか? パンデミックが事態をさらに悪い方向へ導くのか、政府レベルや民衆レベルの連帯でよい方向へ向かうのかは、他の戦争にとってもモデルとなると思われます。

SM

大変重要な点です。非常に破滅的な状況が起こっています。国内のエリートたちは自分の民族・部族のアイデンティティーを煽っており、それが資源をめぐる争いと結びついています。アフリカの解放運動が広がっていた時期には、民族・部族を超えて統一しようとしていましたが、その後は狭いアイデンティティーに後退しました。これは他の地域でも同じですが、グローバル化の危機の中で狭いアイデンティティーが前面に出てきています。アフリカではこれは「新しい部族主義」の台頭と言えるでしょう。資源資本主義に対するオルタナティブ、資源がもたらす恩恵を分かち合うというコンセンサスが重要です。今は非常に難しい状況ですが、いろいろな社会運動があるし、突然状況が変わるかもしれない。

PB

クリーさんはイスラエルにおける「国家の安全」と「民族の純粋化」の結合について話されました。これは各地でのイスラムフォビア(イスラム教徒への嫌悪)とも重なり、またハンガリーなどの国でも起こっています。これは新しい戦争の危険をもたらすのでしょうか、また、移住の権利を擁護している活動たちは戦争に反対する運動に対してどういうスタンスを取っているでしょうか?

KP

アメリカの移民政策の変遷を見てみると、南米とくにメキシコからの移民が始めは労働力の問題として位置づけられていたのが、その後はテロとの戦いの中でも位置づけられるようになり、差別的・強圧的な対応が強まってきました。世界的にみても、ケニアが典型ですが、ソマリアからの難民に対して「テロリスト」ということで隔離・追放(送り返し)するという政策が取られています。
私たちの運動について言えば、移民との連帯の運動は移民の人たちを守るということに集中しており、戦争への反対ということについてはあまり取り組めていません。例外として、中東からの入国規制などの問題については「テロとの戦争」に反対ということを積極的に主張しています。入国規制の対象となっている国は米国が攻撃している国と重なっています(イラン、ソマリア、イエメン)。永続的な戦争になっているので、この面での理解と取り組みが重要だと思います。

PB

タビタさんへの質問ですが、コロナ危機の中での冷戦への動きについて、特に米国ではトランプはコロナ対策での失敗に国内世論の批判が強まる中で、中国や国連を攻撃することで問題を冷戦・軍事化の方向にそらせようとしています。コロナ危機の中で冷戦の危険がどの程度高まっていると考えますか?

TC

もちろん大統領選挙が近いので、トランプは反中国を煽ることを選挙に勝つ戦略としてやっており、民主党もバイデンをはじめとして、中国との対決姿勢を強めています。しかし、それだけでなく、右翼にとっては中国との対抗は米国の経済や国内の問題を解決する上でナショナリズムを煽るという長期的な戦略です。だから非常に危険な状況になっています。しかし、米国の有権者の多数は、中国に脅威を感じているとしても中国との対決ではなく協調を望んでいます。そこに希望があると思います。

PB

現在の状況についていろんな角度から話したいただきましたが、次に、私たちの運動の展望について議論したいと思います。今、多くの国でナショナリズムとそれに対抗する政治党派がありますが、新自由主義に反対するリベラル派や社会民主主義派は軍事主義についてあまり抵抗していません。運動の中でも、反レイシズムや移民の権利、環境、フェミニズムなどの運動の連携が強まっていますが、それらの運動と軍事主義との運動の連携は強くありません。しかし、たとえば軍事主義の下での財政、たとえば米国では毎年700億ドルを軍事に使っています。この半分の350億ドルをグリーンニューディールに使ったら国民皆保険や医療へのアクセスの保障の良いスタートになるのではないでしょうか? ヨーロッパではNATO加盟国の間で軍事支出をGDPの2%に引き上げるという議論がなされています。これは世界的な現象なので、軍事化を止めるという課題を他の社会的要求と結びつけていくことができるのではないでしょうか?

TC

軍事化を止める運動と他の運動の連携は緊急の課題です。グリーンニューディールによって気候危機への取り組みを進めるのか、中国との対決を続けて第3次世界大戦へ進むのかの選択です。もう1つは、経済的理由によって軍隊や軍事産業に引き込まれている人たち、特に自分たちの出身国がアメリカの戦争によって攻撃されているアフリカや中東の国からの人たちの声が私たちの運動に反映されているのかという問題です。

PB

インドでもカシミール問題や中国との関係などで軍事化が進んでいますが、この問題をこの地域の社会問題、貧困の問題の中でどのように取り上げていくことができるでしょうか?

SM

中国との対立は60年にわたって続いており、国境の問題は今も未解決で、ネパールやブータンも巻き込んで常に緊張状態にあり、ちょっとした衝突が引き金になって本格的な戦争へ発展するリスクが常に存在します。さらに最近では中国の一帯一路のインフラ建設事業が現在パキスタンの支配下にあるがインドも領有権を主張している地域を通過するという問題があります。
パンデミックの中で、偏狭なナショナリズムが台頭しています。第一次世界大戦から100年を過ぎていますが、大戦後に言われていた国際協調、国際主義が完全に崩壊しています。今日。複合的な危機の中でナショナリズムが台頭していますが、特に気候危機の影響は北極海の氷河の融解など目に見える形で表れています。希望の兆候として、ヨーロッパで若者たちが気候危機への対策を求めて立ち上がっています。これは現在グローバルな危機の中で、経済の回復をめぐって、何を優先するのかという問題と関係します。

以下、視聴者からの質問と回答<省略>

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