ウイルスがあばくモノ④ 

ウイルスがあばくモノ④ 

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)にかこつけて、「感染症に脆弱な社会の問題」を論じてきましたが、今回は「感染症に動じない社会」は、どんな社会か?です。ごく簡単に言えば、アリに学べ!です※1。危機の時でも最小限のアリで、必要な仕事をこなす。一方、普段は働かないアリもいる余裕のある社会です。つまり、普段から不要な産業を少なくして経済全体をコンパクトにしておきます。仕事が減った分、時間を分配します(仕事を分かち合う)。さすれば、その時間でボランティアや文化活動など、更に社会にかかわれますから、あらゆる問題も解決が容易になります。また、緊急時により必要になる産業ほど余裕を持たせておく、人口を分散し、地域自立・自産化を進める・・・と、続きます。ですが、これが正しいと言うつもりはありません。むしろ、『自分自身が「どんな社会が良いか」を考え・語り合うこと』の方が大切です。ただし、気を付けないと「自己利益しか考えない経済学者」に騙されて自身の首を絞めることになりかねません。「どう変えたい?」と描く一方で、メカニズムの理解が必要です。なぜ、それが「感染症や災害などの危機に動じない経済の仕組み」と言えるのか、どうして危機に脆弱になったかなど。

 前回も「・・・と思わされている」ことに言及しましたが、”豊かさ”はどうでしょうか? 「経済の規模」にはGDP(国内総生産)が指標として使われますが、それが ”豊かさ”と思わされていないでしょうか? 例えば今、食糧危機が起こっていて、手元には食料があるとします。普段なら、それなりの値段で売って、その分GDPに貢献しています。食糧危機なので、只で食料を配ったとすると、その分GDPが減ることになります。一方、どれだけ餓死者がでたとしても、目一体値を吊り上げて一部の人に高く売りつけたとすると、その分GDPが増えることになるのではないでしょうか? (もちろん、実際には法的に制約をかけるかもしれませんが、国際的には制約をかけられません。両国間の力関係の問題になってしまいます。)これは極端な例かも知れませんが、社会的・将来的には不利益になることの方が利益を増すケースは常時あります。

では、別の例で“相場”はどうでしょうか? 昔、「魚転がし」の問題がありました。『帳簿を操作して、架空の相場や損益を作り出す不正な商行為のこと。』と辞書にはありますが、それで魚の値を吊り上げて高く売ればGDP増加には貢献するはずです。では、「土地」「株」「お金」ならどうでしょうか? 投機的売買を繰り返し最終的に高額で売却していくと、次第に土地が高くなり買えない人が増えます・・・。地価や株価の上昇は良いことの様に扱われますが、上昇した資金調達力で鉱山開発などを行えば見えない所で環境破壊・人権侵害・紛争等の誘発もおこります※2。また、「お金」の為替相場や金融派生商品の取引などは不要な混乱をもたらします。政治的選択の目安にされている社会・経済指標に、現実に起こる不都合なコトや「社会的不要/有用性」が反映されないのです。長期的不利益である汚染や温暖化貢献度、生物種の絶滅などが特にフィードバックされず、被害を与えても短期的利益を優先できます(被害が問題になっても、株主は発覚する前に持ち株を売り払ってしまえば、利益を持ち逃げできます)。必要性の低い産業が増えれば、それに要する資源や労働力がより以上に投入されますので、政治においても雇用された人の数が影響力を与えます。危機に際して不要の産業を休業させれば、より損害を証明し易い産業ほど補償も得やすいことになります。一方、これらの産業に雇われていた人も失業や貧困化を味わいます。

逆に長期的利益、とりわけ危機に際して必要なコトから経済を考えるとどうでしょうか? まず、きれいな空気と水・土の維持、食料の生産と分配、備蓄などです。次に医療関係です。人も設備もすぐに増やせませんから、常に余裕が必要です(3倍ぐらいは)。余裕があっても一向に困らないはずです。医療不足で困っている国は不足していません。海外協力で情報ネットワークを築いておけばいち早く対処できますし、現地で封じ込めができれば感染症には最も有効です。国内ではし難い医療体験ができますので、教育訓練にもなります。常に協力していれば、細菌兵器等の疑いをかけられる期待値も下げます。また、医療マネージーなど常時総合的な相談を受ける人にも配置できます。同様に介護・福祉・育児・教育などについても常時の余裕は社会的価値を倍加させられます。隔離や避難所を快適にするのも一つです。常設して普段は子どもの居場所を含めて文化施設や野外教育施設などとしておけば市民活動を推進できます。大型野外教育施設は、村落ごとの即時避難が可能になりますし、常時からボランティアを育成・訓練しておけば、更に避難時や緊急時を快適で貴重な時間を共にできます。安心して。

これらを減らす方が評価の上がる経済指標を如何に評価しますか?

なお、開発教育協会から教材として『新型コロナウイルス感染症とわたしたち』※3が発行されており、その中には「これからの世の中はどう変わる?どう変えたい?」というワークもあります。ぜひ、考えてみてはと思います。未来につなげるためにも!

※1 長谷川英祐「働かないアリに意義がある」2010. メディアファクトリー新書
長谷川英祐「縮む世界でどう生き延びるか?」2013.メディアファクトリー新書

※2 『スマホの真実―紛争鉱物と環境破壊とのつながり』2008.アジア太平洋資料センター(PARC)
http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/wakeupcall.html
スマートフォンをつくるにはレアメタルを含む20種類以上の鉱物が必要とされます。それらはどんなところで採掘されていて、現地ではどんな問題が起きているのか? フィリピン、コンゴ民主共和国、そしてエクアドルの鉱山地帯の住民の声に耳を傾けてみましょう。

※3 認定特定非営利活動法人開発教育協会(DEAR):
http://www.dear.or.jp/books/book01/2645/
アクティビティ4:これからの世の中:
新型コロナウイルス感染症に対するさまざまな気持ちを「未来を変えていく力」に変えられるよう、「わたしが変えたいと思うこと」という視点を持って、コロナ後(ポスト・コロナ)の世の中を考えます。
(以上、特定の読者向けに、2020年5月22日に記した文章を元に再構成しました。)


追記:アリに学べ!/※1の長谷川氏によると、「アリのコロニーを実際に観察すると、2~3割はあまりよく働かないアリがいる。仕事をしないアリがいるのは不効率のように思われるが、「働かないアリ」が存在しないと、コロニーは長続きできないのである。よく働く~よく働かないは、仕事に対する腰の軽さが個体によって違うのであり(反応閾値の個体差)、全部のアリが同程度に腰が軽いと、同じくらい働いて同時に全員が疲れてしまい、誰も働けなくなる時間が生じる。コロニーには、卵の世話などのように、短い時間でも中断するとコロニーに致命的なダメージを与える仕事があるが、みなが働けなくなると、それができなくなる。」そして、残りの2割のアリで仕事をする場合も、より大事な仕事を誤りなく選ぶから成り立つということです。また、「短期的利益と長期的存続のトレード・オフ(利害相反)」を論じており、『「短期的効率さえ良ければずっと成長し続けられる」という仮説は資源が無限でなければ成り立たず、世界が有限ならば、早く成長するほど限界も早く来る』『生物にとっていちばん重要なことは「滅びないこと」だった』と言及しています。

ここからは私の見解ですが、人間社会では、※2で例示される様に、見えないところで環境破壊や人権侵害をしている”有害産業”も存在しますから、積極的にこれらの”有害産業”を削減すれば環境にも社会にも良く、余裕もできます。工業製品は長寿命化させれば利便性をあまり落とすことなく省資源化できます。その様な経済的な淘汰圧(選択圧)をかけるか否かの問題なのです(現在は逆に資源を浪費させる淘汰圧がかかっている)。

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