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同著の「日本語版への序文」の冒頭部分を紹介します。
この本は一つの疑問から出発している。つまり、中国共産党が世界で最もひどい警察国家を統治していることを考えると、その指導者たちはどうして、二酸化炭素の排出を含む国有企業からの汚染でさえ、抑え込むことを部下である役人たちに強制できないのか、という疑問である。実際のところ、最近の研究が明らかにしたところでは、発電・鉄鋼・石油精製などの産業の国有企業一社から排出される温室効果ガスは、工業国の排出量全体よりも多いことがわかっている。世界最大の鉄鋼生産企業である中国宝武鋼鉄集団は、世界二四位の排出国であるスペインよりも多くの排出量を記録した。中国石油化工は、世界一一位の排出国であるカナダよりも排出量が多かった。中国石油天然気は、韓国とベトナムを合計したよりも多くを排出していた、等々。中国の習近平主席は、二〇二〇年九月二三日、国連総会での演説で「グリーンで低炭素の発展様式へ移行する」ことや「CO2排出量を二〇三〇年までに減少に転じさせ、二〇六〇年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを約束した。こうした企業は中央政府によって直接コントロールされているのだから、習近平はそれらの企業に環境を汚さないように命令することができるはずだと思えるだろう。結局、中国の独裁政権はこうした状況では有利であるとしばしば論じられてきた(たとえばイーフェイ・リーやジュディス・シャピロがそのように主張している)。「気候変動を緩和し、何百万という種を絶滅から守るために残された時間が限られていることを考えると、グリーン権威主義がわれわれに方向性を示すことができるかどうかを考えてみる必要がある」というのである。では、彼がそうしないのはどうしてなのだろうか?
世界の主要な資本主義的産業民主主義国のほとんどは、ある程度、温室効果ガスの排出量を減少させてきた。二〇二三年、アメリカ経済は二・五%の成長だったが排出量は四・一%減少し、二〇〇五年のピーク時からは一七・二%の減少だった。EUの排出量は一九九〇年のピーク時から三二・五%の減少だった。日本の排出量も二〇一三年のピークからは一九・三%減った。IMF加盟の先進四一カ国のGDPは二〇二三年に一・七%増加したが、CO2排出量は四・五%の減少だった。それは半世紀前の一九七三年よりも少ない数値である。もちろん、アメリカ・EU・日本の排出削減は世界の気温上昇を摂氏一・五度以下に抑えるには依然として不十分であり、パリ協定の各国目標値を達成しても十分でないことは間違いない。しかし、少なくとも減少しているのだ。
これとは対照的に、中国のGDP成長率が二〇一〇年の一〇・六%から近年になって五〜六%へと鈍化したちょうどそのときに、「グリーン権威主義」者である習近平のもとで、彼の前任者のときと同じくらい、中国の二酸化炭素排出量は絶え間なく増加してきたのである。二〇二三年、中国の石炭消費の増加は四・四%、GDP成長率は五・二%で、CO2排出量は五・二%の増加だった。二〇二〇年から二〇二三年の間の増加は一二%だった。一九九〇年から二〇二三年までの間に、中国のCO2排出量は五倍になった。中国の排出量は二〇〇五年にアメリカを上回った。二〇一三年には、中国の排出量はアメリカの二倍となった。二〇二三年になると、三倍近くになった(中国は一二・六ギガトンで、アメリカは四・八ギガトン)。しかしながら、GDPはアメリカのわずか六五%だったのである。二〇一九年、中国の排出量は先進国全部の排出量を合わせたよりも多くなり、二〇二三年までにさらに一五%増加した。同年、中国の排出量は全世界の炭素排出量の二七%を占めた。今日ではそれは三五%となった。一人当たりで言えば、中国の排出量は二〇一二年にEUを凌駕し、二〇二〇年になると全先進国経済の平均を上回り、二〇二三年にはアメリカと比べて三分の一だけ少なかった。歴史的に言えば、中国の累積排出量は二〇三九年までにはヨーロッパを上回り、二〇五〇年までにはアメリカを上回ると見積もられている。
世界の大半が石炭火力発電所を閉鎖している一方で、中国は石炭にさらに依存し、数百カ所もの新たな石炭火力発電所を建設している。それは平均すると一週間に二カ所の割合になる。中国はまた、石油や天然ガスの生産に拍車をかけ、その輸入を増やしている。習近平の治政のもとで、中国は世界最大の石油・天然ガスの輸入国となった。要約すれば、習近平はグリーンで低炭素な未来に移行するどころか、世界で最も炭素集約型の産業経済を発展させているのである。カーボン・ブリーフによれば、中国は「二〇一五年のパリ協定による目標を大幅に下回る」と見積もられており、中国のCO2削減のあらゆる約束や公約が「ひどく横道に逸れている」のはこうした理由からである。では、どうしてこうなるのだろうか?
習近平による化石燃料のから騒ぎは、逆説的だが、中国が再生可能エネルギーにおいても世界をリードしていることを考えると、なおさら驚くべきことである。私が第四章で論じているように、そして最近のデータによって確認されているように、中国は風力や太陽光といった再生可能エネルギーの圧倒的な世界最大の生産国・消費国でもある。二〇二三年だけで、中国は驚くべきことに二一六・九ギガワットもの太陽光発電(二〇二二年の一四八%増)を新規に増加させ、風力発電能力も(二〇二二年から一〇二%増の)七五・九ギガワットを追加した。このことを状況の中でとらえると、二〇二一年までの全期間を通じて、アメリカは太陽光発電を総計一五七ギガワット設置し、インドは八一ギガワット、日本は七五ギガワット、ブラジルは四三ギガワット、スペインが三四ギガワットの設置だった。二〇二三年、中国に設置されている実用規模の太陽光発電能力は六一〇ギガワット(全発電能力の二〇・九%)、風力発電能力は四四〇ギガワット(全体の一五・一%)に達した。このようにして、二〇二三年末までには、中国の風力・太陽光発電は国内発電能力の三六%を占めていたのである。水力発電能力の一四・四%を加えると、中国の再生可能発電能力は合計で五〇・四%になる一方で、熱利用発電は四七・六%、原子力発電は一・九%である。中国にとって再生可能エネルギーが主導するエネルギーの未来の先駆けとなるべき風力・太陽光再生可能エネルギーの驚くべき成果ではある。しかし、こうしたことは実際には起こっていない。
問題は、中国の膨大な太陽光・風力能力が国内の発電や消費に反映されていないということである。それはほとんど取るに足らない電力を生産しているだけである。二〇二三年を見ると、熱利用(石炭・石油・天然ガス・バイオ燃料)が発電量の七〇%を占め、石炭だけで六〇%を占めていた。風力は九%、太陽光は辛うじて三%、水力が一三%、原子力が五%だった。太陽光と風力は、発電能力の三六%を占めながら、中国の電力のわずか一二%しか生産していないのだ。その一方で、石炭は発電能力の四〇%を占めているが、電力生産は六〇%に達しているのである。
中国が石炭を太陽光・風力といった再生可能エネルギーに置き換えられない状況が続いており、二〇一〇年代はじめに最初の太陽光・風力発電所が中国に建設されたときからずっと、そのことが再生可能エネルギーにとっての悩みの種だった。しかし、中国が発電能力を実際の発電に転化できていないのは中国特有のものである。このことは中国の経験と他の国々の経験とを比較すると、きわめて明らかである。たとえば、中国の発電能力と発電の割合をアメリカと比べてみよう。二〇二三年には、中国の実用規模の発電能力の一五・一%を風力が占めていたが、電力の九%を生産するにとどまった(効率は五九%)。太陽光も実用規模の発電能力の二〇・九%を占めていたのに、電力のわずか三%しか生産しなかった(効率は一四・五%)。これと比較して、アメリカでは二〇二三年に実用規模の風力発電はアメリカ全体の発電能力の一二%で、実際の発電の一〇%が風力によるものだった(効率は八三%)。実用規模の太陽光発電は全体の発電能力の八%を占め、実際には電力の四%を生産した(効率は五〇%)。言い換えると、アメリカの風力・太陽光は、中国よりも発電能力単位あたりで二九〜五〇%も多くの電力を発電しているということである。
実際のところ、多くの国々(その多くは中国よりも貧しい)では、太陽光・風力やその他の再生可能エネルギーによる発電シェアは中国よりもずっと大きい。チリは電力の一八%を太陽光だけで発電している。同様に、ホンジュラスは一二・五%、オーストラリアは一二・三%、オランダは一一%、日本が一〇・四%、モーリタニアですら九・九である。ノルウェー、ニュージーランド、コスタリカは電力の九八%を再生可能エネルギー(風力・水力・太陽光)で発電している。同様に、スウェーデンは五〇%、ドイツは二〇二二年で四七%、ウルグアイは九一〜九五%などなど。世界第一位の化石燃料超大国であるアメリカでさえ、二〇二二年には太陽光・風力発電が石炭・原子力発電を上回り、二〇二三年には発電の一六%を占めていたのである。これは中国より四%以上多い数字である。EIA(アメリカ電子工業会)の推計によれば、アメリカの設置済みの太陽光・風力発電能力は相対的に貧弱であるにもかかわらず、二〇二四年には一八%に上昇するとのことである。中国は世界中のどの国よりも多くの資金を太陽光・風力設備に投入してきた。世界の設置済みの風力・太陽光発電能力の半分が中国にある。そして、中国は送電系統で世界を主導している。しかしながら、中国の風力・太陽光発電は、国内電力消費のうち辛うじて一二%を占めているだけだ。どうして中国政府は他の国のように発電能力を実際の発電へと転化できないのだろうか?
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