リーマンショックから10年〜いかに直近の危機への対応が次の危機の基礎を築いたのか(ボド・エルマース)

10年前の2008年9月15日は、リーマン・ショックと呼ばれる金融危機の象徴ともいえる「リーマン・ブラザーズ」が破綻した日です。
ここでは、この問題と今日における新たな金融危機の可能性について、ボド・エルマースが書いた論評を紹介します。筆者のボド・エルマースは、ユーロダッド(Eurodad=債務と開発に関するヨーロッパ・ネットワーク)の債務問題に関するリーダーをしています。CADTMのサイトに掲載されている英語版から翻訳しました。

変文は、http://www.cadtm.org/Financial-Crisis-10-years-on-How-the-response-to-the-last-crisis-laid-the

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金融危機は10年間続いている〜いかに直近の危機への対応が次の危機の基礎を築いたのか(ボド・エルマース)

10年前の2008年9月15日、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破産した。この破産は、主として北大西洋金融危機の重大事件として考えられている。この金融危機はまた、世界の他の地域にも深刻な影響をもたらした。世界中で、この10年間続いた危機は、貧困・格差の増大だけでなく、膨大な失業を引き起こした。それは、人民の権利、とりわけ労働者の権利を切り下げるために使われ、悪用されてきた。その一方で、危機を引き起こした金融セクターは多額の公的資金による救済から利益を得ていたのだ。この危機が起こってから10年が経ち、世界的な債務レベルは以前よりも高くなり、債務の脆弱性はますます制御するのが困難になっている。世界中の活動家が2018年9月15日、金融セクターの根本的改革を要求してスタンディングをおこなうのはそのためである。

危機の原因

リーマン・ブラザーズの破産で頂点に達した危機は、三つの関連した要因によって引き起こされた。

1)増大する格差

アメリカを含む多くの国において、1990年代から2000年代初めまでの間、実質賃金は上昇しないか、引き下げられた。貧しい人々はもはや賃金収入によっては消費をまかなうことができなかった。同時に、クレジットへのアクセスはより容易となったため、必需品を購入するために借金し、より借金まみれになった。くわえて、少数の金持ちの手にますます富が集中することになった。これはのちに「1%」としてオキュパイ運動によって名付けられた。金持ちは、資金不足の貧しい人々への貸付を含む投資の機会を必要としていた。銀行は、それによって得られる高額の手数料のために、「サブクライム・ローン」システムを促進した。このシステムは、持続不可能であり、2008年には崩壊してしまった。

2)公共サービスの民営化、生活・社会のより多くの部門の金融化

1980年代における新自由主義時代の幕開け以降、本来は公的であるべき公共住宅・教育・医療・他のサービスの供給が、削減されてきた。人々は必須のサービスのために金を払い始めなければならなかった。これが借金することによってのみ可能な場合もあった。金融セクターは、学生ローンや医療ローンのような新た「資産クラス」を開発・導入し、債務全般をより一層加速した。

3)金融セクターの規制緩和

クリントン政権とブッシュ政権は、1930年代の大恐慌後に取り入れられた多くの規制を撤廃した。貯蓄家と借り手とを結びつけるという退屈で古くからあるビジネスの代わりに、投資銀行はビジネスモデルを変え、クレジット・デフォルト・スワップ(訳注:信用リスクの移転を目的とするデリバティブ取引の一種)や債務担保証券のような新たな金融商品を発明した。これは過度にリスキーな貸付を奨励し、可能にした。アメリカ証券取引委員会のような規制官庁やムーディーのような格付け会社でさえも、これらの金融商品が引き起こす危険について十分には理解していなかったか、あるいは単に無視した。危機が始まったとき、これらのデリバティブの多くが単なる「口から出任せ」に過ぎなかったことが判明した。本質的には、金融セクターはドミノのように倒壊した架空資本の家を作りだしたのだった。

危機は拡がっている

危機は、不動産価格や関連する金融商品、とりわけ不動産担保証券の大きな下落ともなって、二〇〇七年から拡がっていた。大西洋の両岸にある銀行が苦境に陥った。その中には、ベア・スターンズ、メリル・リンチ、リーマン・ブラザーズ(アメリカ)、ノーザン・ロック、スコットランド王立銀行(イギリス)、ドイツ産業銀行、ハイポ・リアル・エステート(ドイツ)が含まれる。これらはつぶれたり、事実上国有化された銀行のより顕著な例のいくつかでしかない。

2008年のリーマン・ブラザーズ破産は転換点だった。このとき以来、傍聴して高度に負債過剰となっている金融産業のメルトダウンが、世界経済の完全なアルマゲドンで行き着くかもしれないという真実の、あるいは見抜かれたリスクが存在した。金融産業ロビーは、これらの恐れを燃え立たせることに、不幸なことに成功した。結果として、政府は政策を変更した。破産した銀行を破産させる代わりに、巨額の公的資金が民間銀行のバランスシートを安定させるために投入された。貧しい人々から金持ちへの最大の再分配として書かれているものの中で、世界中の政府が何兆ドルもの公的資金や公的保証を民間銀行へと供与した。

銀行危機から公的債務危機へ

これらの救済プログラムは、未払い債務の停止、長期的には避けられないのだが、デレバレッジ・プロセス(訳注:借入金を返済してレバレッジ取引を解消すること)の停止を実施した。民間債務は公的バランスシートへと移された。2007年から2014年までの間に、EUにおける公的債務は国際総生産(GDP)の57.5%から86.5%に増加した。銀行救済の負担をおわされた諸国において、とりわけ急激に増加した。アイルランドにおいては、公的債務レベルは、2007年のGDP比23.9%から2012年のGDP比119.6%にまで5倍に増えた。スペインにおいては、35.6%から100.4%まで3倍になった。危機が始まる前にすでに比較的高い公的債務レベルにあったギリシャにとっては、銀行救済は最終的な打撃となった。

ギリシャは、金融セクターの災厄が国家破産を招いた最初の国となった。この場合でも、金融部門ロビーは、救済が経済的アルマゲドンを回避するのに必要であることを政策決定者に信じ込ませることに成功した。包括的債務改革において、主にフランス・ドイツ・イギリスの銀行が保有する持続不能な債務を帳消しする代わりに、ギリシャは、ギリシャ債務機関、IMF、後には新たなEU救済ファンド(ヨーロッパ金融安定機関、ヨーロッパ安定メカニズム)を通じて、他のEU諸国からの公的ローンを使って、銀行に借金返済することを「強いられた」。ギリシャ国家によって取得された救済ローンの95%は、債権者、主に民間銀行に返済するために使われた。このとりくみは、他のEU4ヶ国(アイルランド、ポルトガル、スペイン、キプロス)でも繰り返された。アイルランドはもともとアイスランドの例に倣う計画だった(民間銀行の救済を拒否しようとした)が、ヨーロッパ中央銀行によって救済の道をいくように強制された。

人民がツケを払っている

金融セクターで始まった金融危機は実体経済と現実の人民の生活条件に大きな影響を与えた。それに続く景気後退は、世界総生産のうち4兆ドルを消滅させ、ヨーロッパの工業生産は、危機の最初の年に20%落ち込んだ。いくつかの国では、それはいまだに完全には回復していない。国際労働機関(ILO)は6100万人の雇用が失われたと推計し、国際食糧農業機関(FAO)は1億人単位で飢餓の被害を受けたとの調査を発表した。

最悪の救済が行われた諸国で暮らす人々への影響は、とりわけ厳しいものだった。調整の必要性から金融セクターの負担を軽減するために、負担は、借款条件によって押し付けられた暴力的な緊縮策と調整政策を通じて、人民に転嫁された。ギリシャは、公共支出を大きく削減することを強いられたので、GDPの25%を失った。つまり、経済の4分の1がそのようにして消滅してしまったのである。賃金は全般的に下落した。ギリシャの最低賃金は大きく引き下げられた。労働権は大幅に削減された。公共サービスはカットされた。社会福祉システムは切り縮められた。

影響を受けた諸国では、過去10年間は「失われた10年」となった。青年世代全体が「失われた世代」になった。ギリシャ、ポルトガル、スペインの青年は、数百万人単位で、ヨーロッパ中のより幸運な場所で職を探すために、故郷の国を離れた。雇用市場はゆっくりと回復しているが、危機は新自由主義的転換のために使われた。正規雇用は、何の保障も権利もない不安定雇用で置き換えられた。

来たるべき危機と新たな債務脆弱性

危機に対する政策対応がおこなわなかったことは、危機の底にある原因を明らかにすることだった。世界経済は、いまや以前よりもさらに大きくレバレッジがかけられている。IMFの2018年財務監査報告によれば、世界中の債務は164兆ドルにのぼる。これは世界総生産の225%にあたり、2009年の213%という数字からさらに高くなっている全ての国家群が影響を受けた。途上国経済の公的債務は2017年においてGDPの106.9%に達し、これは平時では最高レベルである。事態は、民間セクターでも改善されたようにはみえない。企業債務は、世界で66兆ドルという記録的なレベルまで増えた。

「北」の中央銀行が民間銀行への圧力を軽減するために実行した量的緩和政策は、「南」への投機的な資本フローの津波を解き放った。それは貧困国を新たな債務の罠に引き込んだ貸付ブームの引き金を引いた。IMFは、貧困国(LICs)の5分の1だけが債務危機のリスクが低いと考えられるとレポートしている。1990年代以降の重債務貧困国イニシアチブの積極的な影響は帳消しにされた。途上国債務危機がすでにグローバル・サウスの多くの部分に戻ってきた。それはこの前の危機よりはずっと制御するのが困難になるだろう。債権者の状況はさらに複雑になっており、貧困国でさえ、将来の輸出収入を担保にして、ユーロボンドや担保保証ローンのような革新的金融商品を使い始めた。こうしたローンは再編成するのがきわめて難しい。

金融規制における新機軸は不十分だった。たとえば、EUが誇らしげに報告するように、危機に対応して金融規制に50以上の提案をおこなったのだが、これらは大きくポイントを外したものだった。経済をデレバレッジし、持続可能な方法で債務危機にとりくむために、必要とされるときに、債務を削減するという債務解決メカニズムが導入されることはなかった。国連レベルでのそのようなメカニズムを作りだそうとする試みも結実しなかった。代わりに、無責任な銀行は困難に陥ったら、いまだに救済されることに頼り切っている。

実際、銀行が救済されたという事実は、通常のビジネスを考慮したもので、金融システムにおけるより根本的な転換・変化がなぜ起こらなかった主な理由の一つとして考えることができる。救済しないことの結果は確かに厳しいものとなるだろうが、それは恐らく世界が目覚め、行動するために、必要としたものである。

緊急行動が、特に脆弱な途上国を守るために必要とされる。危機の10周年が迫っているまさにその時、アルゼンチン通貨とトルコ通貨がクラッシュした。これは新たに起こる市場危機の到来を示唆ずるものである。これらの国における民間企業・銀行は、外国通貨で大量に借りていて、いまや海外投資家は資金を引き上げつつある。もし債務危機を防ぐ国際的解決策が見つからなければ、途上国は少なくとも、投機的な資金流出に対する効果的な資本コントロールのような、あるいは海外通貨貸付に上限を導入することによる一方的手段を始めるべきである。

リーマン・ブラザーズ破産から10年で、金融産業は市民や国家全体を抵当にとり続けている。9月15日、世界中で抗議のスタンディングで活動に参加しよう。金融産業が次の危機を引き起こす前に、金融を変革すべき時なのである!

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